高齢化社会と言われて久しいです。
現在は高齢者人口は全体の25%を超えて「超高齢社会」と言われるようにまでなりました。今まさに高齢ドライバーの事故防止は社会問題となり、運転免許の自主返納を呼びかける声も少なくありません。
「いっそのこと運転免許にも80歳定年制を設ければ?」なんて声も聞かれますが、問題はそんな単純なものではありません。
高齢者全員がインフラの整った便利な地域に住んでるわけでもないし、
また自主返納しても公共の乗り物が自宅の近くを通るとも限らない。
私は、東京など都心に住む高齢者は80歳での自主返納を義務化しても良いかと思ったりもしますが、足が不自由だからこそ車が必要との声もあり、なかなか法整備することは困難といえます。
今政府は、「自動ブレーキ限定免許」の様なものの新設についても検討しているようですが、自動ブレーキ車の普及が間に合っていない状態では、金銭的な個人の負担もあり、これもすぐにはうまくいかないでしょう。
何れにしても運転免許継続の意思は、現状本人に委ねられられていますが、しかし本人が継続を心願していても継続できない方もいます。
それは、一定の病気や怪我など、身体的に運転が困難となった場合です。
特に近年では75歳以上の高齢ドライバーに義務付けられた「認知機能検査」によって、その結果如何では、運転免許が取り消されてしまうことが挙げられるでしょう。
認知機能検査
認知機能検査とは、75歳以上の高齢ドライバーが一定の条件に該当した場合受検しなければならない検査のことです。
検査を受けなければならない「一定の条件」とは
1.運転免許更新前認知機能検査
運転免許更新には高齢者講習を受講していなければなりません。
また高齢者講習は2時間講習と3時間講習があり、認知機能検査の結果によって振り分けられます。
検査の結果が100点満点中
76点以上の方が2時間講習
76点未満の方は3時間講習
となります。
2.臨時認知機能検査
75歳以上の方が一定の交通違反を行なった場合、臨時で認知機能検査を受検しなければなりません。
一定の交通違反は18種類あります。
これらの違反はいずれも認知症を発症した方が起こしやすい違反ということで、認知機能検査によりその疑いがないかを判断されるということです。
臨時認知機能検査・臨時講習はこちらの記事で詳しく解説しております⬇︎
»»「臨時認知機能検査・臨時高齢者講習とは、詳しく解説」««
検査結果の悪かった方は
認知機能検査の結果は3つに分類されます。
3分類「記憶力判断力が低下していません。」 76点以上
2分類「記憶力判断力がやや低下しています。」 49−75点
1分類「記憶力判断力が低下しています。」 48点以下
手渡される結果通知書も受け取った段階でわかるように色分けされています。
3分類は青
2分類は黄
1分類は赤
赤紙をもらってしまった(認知機能検査の結果が48点以下だった)場合、医師の診断を受けなければならず、診断の結果が認知症だった場合は運転免許取り消しの対象となります。
検査結果の悪かった方の3つの選択肢
1、認知機能検査を再受検
検査結果が何かの間違いかもしれません。
体調が悪かったのかもしれない。
もう一度受検して真価を問うという選択です。
しかしもう一度同じような点数だと、もはや逃げ道はありませんよ。
2、医師の診断を受ける
この選択は、運転免許を継続したい方です。「車がなければ生活できない。」「免許は墓場まで持っていく。」「意地でも免許を持ち続けたい」方は、お医者さんに適切な判断を委ねてください。仮に「認知症だから運転免許は取り消しです。」という医師の意見なら諦めがつくでしょう。
もし「認知症に非ず」という診断でも、運転免許は継続ですが、運転は諦めることをお勧めします。何かあってからでは遅いですよ。
3、そのまま放置して失効
この選択は一番勿体無いと言えるでしょう。運転免許の継続はもちろん、運転経歴証明書も受け取れません。結果、全てのチャンスを失うということです。50年の経歴が全てパーになるということです。
しかし残念ながら、この検査結果を受けて、周りのご家族のご協力があれば、返納にしても再検査にしても、どのような手続きを踏めば良いかの判断ができますが、誰の助言も受けられない場合、何をして良いかもわからず、失効してしまうケースは多いようです。
4、運転免許の自主返納
私の一番お勧めはコレ!
・免許がなければ運転できない。
・運転しなきゃ運転での加害者になるリスクはゼロ(当たり前)。
・ついでに運転経歴証明書を手に入れ、様々なサービスを受けることができる。
平成30年中「認知機能検査」の結果が悪かった方はその後どうなったか
平成30年(2018年)中、検査結果の悪かった方がその後どのような進路を辿ったのか調べてみました。
平成30年中認知機能検査を受検した方
約216万5000人です。
これは驚きの数字です。これだけ多くの方が検査を受けられたということだけではなく、これだけ多くの75歳以上の方が、運転免許の継続の意思を示したしたということになります。もちろんこの数字は免許更新に該当した方と一定の違反をした方の数字ということなので実際の該当年齢となる人口はもっと多くいらっしゃいます。
第1分類「認知症の恐れ」があると判定された方の数
認知機能検査を受検された216万5000人のうち
第1分類「認知症の恐れ」ありと判定された方の数は5万4千700人。
全体の約2.5%です。この数字が多いか少ないかの判断は難しいところですが、現在高齢者の7人に1人は認知症と言われているところからすると少ない数字なのではないでしょうか。
運転をしている人は認知症にかかりずらいのかもしれません。
それではこの5万4千700人の方達がその後どのような道に進んでいったのかがきになるところです。
1、再受検し、「2分類」又は「3分類」に昇格した方
もちろん検査受検時全ての方が、体調など万全だったとは言い切れません。
中には席次が後ろの方でイラストなどが見えなかったという方もいらっしゃいます。
このようにもう少し点数が取れたのではないかと思う方や、納得のできない方は、再受検することができます。
この再受検された方のうち点数が上がり、「2分類」又は「3分類」に昇格できた方は
8,700人
「第1分類」の判定を受けた方のうち15%の方は点数が上回ったということになります。私は検査官を行ったことがある者として、その検査方法や検査環境にも問題を感じますが、昇格された方がちょっと多すぎるようにも思います。
医師の診断を受け「認知症」と診断され取り消しになった方
1,965人
この数字は、あくまでも診断を受けた方のうちなので、全ての方が診断を受けたわけではありませんので、この数字の多いか少ないかの評価については難しいと言えます。
運転免許の自主返納又は失効に至った方
2万3700人
2019年以後高齢者の重大事故が連日のように報道されこの数字もさらに増加することが見込まれますが、第1分類の方のうち約半数が自ら免許を手放したことになります。
「第1分類」の判定を受け、診断の結果「運転免許を継続」できた方
これは単純な引き算で算出
「第1分類」と判定された方ー(「第2、第3分類」昇格者+「取り消し」+「失効」又は「自主返納」)=運転免許継続
54,700人ー(8,700人+1,965人+23,700人)=20,335人
ということで「第1分類」の判定を受けた方のうち2万人以上が運転免許を継続したということになります。
しかし運転免許を継続した方のうち、次のようなケースもあります。
6ヶ月後、診断書が提出を求められるケース
「認知機能検査」の結果が「第1分類」となり、医師の診断を受けたが、認知症とは認められなかった方のうち、「認知症ではないが認知機能の低下がみられ、今後認知症となる恐れがある」と診断され、原則6ヶ月後の診断書の提出を求められるケースがあり、これに該当した方が約1万人だったということです。
「認知機能検査」今後の課題
このように認知機能検査の結果、運転免許証を継続できない方が多くいらっしゃいますが、果たしてその妥当性については疑問が残るところです。
検査は何度でも再受検出来てしまう
検査が何度でも再受検出来てしまうのであれば、たった1度、たまたまでも良い点数を取ってしまえば免許3年間継続がほぼ確定(臨時認知機能検査に該当しなかった場合)となる。また事前勉強が可能なので、かなり重度の認知症でもない限りそれなりの点数が取れてしまうという問題。
「第2分類」(認知症ではないが認知機能が低下)の判定を受けても3年間は免許を継続できてしまう
急激に認知機能の低下がみられるケースも多いため、3年に1度の検査頻度に問題はないのか?
死亡事故を起こした高齢ドライバーの半数は「第3分類」
また死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち、約半数は直近の認知機能検査の結果が「第3分類」と判定されています。ということは必ずしも認知機能検査の結果が悪いから交通事故を起こすとも言い切れず、その他の対策も検討する必要があるのではないでしょうか。
終わりに
ますます進む「超超高齢社会」の中で、一層高齢者の交通死亡事故の割合も高くなるでしょう。
このことから、この様々な課題を残す中、問題はさらに注目され、高齢者講習制度や認知機能検査についてますます強化されることは必至であります。
また、自主返納者に対する得点(自治体によって様々)を増やすことや公共交通機関の一層の充実などをはかり、自主返納しやすい環境づくりが今後の重要な課題となっていくでしょう。