こんにちは!指定自動車教習所で現役の教習指導員・検定員として働きながら、日々多くの高齢ドライバーの皆様のサポートをさせていただいている専門家です。
75歳のお誕生日が近づき、ご自宅のポストに警察から「運転免許証の更新手続のお知らせ」のハガキが届いた時。多くの方が「ついにこの時が来てしまったか……」と重いため息をつかれているのではないでしょうか。
皆様が最も恐れているもの、それは更新の前に立ちはだかる「認知機能検査」の存在ですよね。
私の勤める教習所にも、検査の数ヶ月前から「落ちたらどうしよう」「最近物忘れが増えてきたから自信がない」「心配で夜も眠れない」と、すっかり憔悴しきった表情でご相談に来られる方が後を絶ちません。長年無事故で安全運転を続けてこられた誇り高きドライバーの皆様が、たった数十分のペーパーテストのせいでそこまでご自身を追い詰めてしまうのは、指導員として本当に心が痛みます。
でも、どうかご安心ください。 現役の指導員として、毎日この検査の現場に立ち会っている私から、皆様に絶対に知っておいていただきたい事実があります。
それは、「認知機能検査は、正しい知識と少しの『メンタル術』さえあれば、決して恐れるようなものではない」ということです。
この記事では、認知機能検査を前に極度のプレッシャーを感じているご本人様、そして親御さんを心配されているご家族様に向けて、検査の本当の難易度や、意外と知られていない「落ちる人の特徴」、そして本番で緊張せずに実力を発揮するための「最強のメンタル術」を徹底的に解説します。
この記事を最後までお読みいただければ、肩の力がスッと抜け、安心して検査当日を迎えられるはずです。ぜひ、温かいお茶でも飲みながら、リラックスして読み進めてくださいね。
1. そもそも「認知機能検査」とは?
まずは、敵(?)の正体を正しく知ることから始めましょう。漠然とした不安は、正しい知識を持つことで大きく和らぎます。
認知機能検査とは、75歳以上のドライバーが運転免許を更新する際に、道路交通法によって受検が義務付けられている「記憶力と判断力の検査」です。運転免許センターや、お近くの指定自動車教習所などで受けることができます。
検査ではなく「医師の診断」でも代用可能
実はあまり知られていないのですが、必ずしも教習所等で認知機能検査のペーパーテストを受けなければならないわけではありません。 ご自身のかかりつけ医や専門医を受診し、「認知症の診断(認知症の疑いがないという診断書)」を書いてもらい、それを公安委員会(警察)に提出して問題なしとされれば、認知機能検査を受検して合格したものと全く同じ効果を得ることができます。「どうしてもテスト形式の場所に行くとパニックになってしまう」という方は、こうした医療機関での診断ルートがあることも覚えておいてください。
不合格=即「免許取り消し」ではありません!
皆様が最も誤解して恐れているのが、「この検査で点数が悪かったら、その日のうちに免許証を取り上げられてしまうのではないか」ということです。 結論から言いますと、検査の点数が悪かっただけで、即座に運転免許が取り消されることは絶対にありません。
検査の結果が基準点に満たなかった場合、どうなるのか? その場合は、「あなたは記憶力や判断力が少し低下している可能性があるので、念のためお医者さんの詳しい検査を受けてきてくださいね」という段階に進むだけです。そして、専門医の診察を受けた結果、医学的に「認知症である」という確定診断が下された場合にのみ、初めて運転免許の取り消し(または停止)の手続きに入ります。
つまり、認知機能検査はあくまで「認知症の疑いがある人を早期に発見するための『入り口のスクリーニング(ふるい分け)』」に過ぎないのです。
2. どんな問題が出るの? 実は難しくない検査内容
「難しい計算問題が出たらどうしよう」「漢字が書けなかったら落とされるのだろうか」と心配される方もいらっしゃいますが、ご安心ください。認知機能検査の内容は、驚くほどシンプルです。
検査は大きく分けて以下の2つの項目しかありません。
- 手がかり再生(イラストの記憶): 16枚のイラスト(大砲、ラジオ、戦車、百合など)を数分間見て記憶します。その後、全く関係のない課題(数字を斜線で消す作業など)を挟んでから、「先ほどどんなイラストがありましたか?」と思い出して紙に書き出すテストです。最初はヒントなしで思い出し、次は「武器」「電気製品」などのヒントをもとに思い出します。
- 時間の見当識: 「今日は何年の、何月、何日、何曜日、何時何分ですか?」という、現在の時間的な感覚を問うテストです。
【超重要】100点満点中、わずか「36点以上」で合格です!
ここからが、皆様に一番お伝えしたい朗報です。 数年前の法改正により、認知機能検査の採点基準は非常にシンプルかつ「優しく」なりました。
現在の認知機能検査は、100点満点中、たった「36点以上」取れれば合格(認知症の恐れなし)となります。 これ、冷静に考えてみてください。100点満点のテストで36点です。小学校や中学校のテストであれば、赤点ギリギリか落第点と言われてしまうような低い点数ですよね。しかし、この検査では36点取れれば「大合格」なのです。
極端な話をすれば、「今年が何年で何月何日か」という日付の問題に正確に答えられれば、それだけでかなりの点数を稼げます。あとは16枚のイラストのうち、半分以上を綺麗さっぱり忘れてしまっていても、ヒントをもらっていくつか思い出せれば、あっという間に36点のボーダーラインは超えてしまいます。
医学的に正常な認知機能をお持ちの方であれば、普通に受けてまず落ちることはない。 それが、認知機能検査の真実の難易度です。
3. 現役指導員が見た「不合格になる方」の4つの特徴
「じゃあ、落ちる人なんて誰もいないんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、現実には36点を下回って不合格になってしまう方も一定数いらっしゃいます。 長年現場にいる私が見てきた、「不合格になってしまう方の特徴」を4つ挙げます。ご自身が当てはまらないかチェックしてみてください。
① そもそも認知症が進行している方
大変心苦しいことですが、ご本人が気づかないうちに、すでに医学的な認知症が進行してしまっているケースです。この場合は、ご自身の命と周囲の安全を守るためにも、検査で低い点数が出て専門医の受診に繋がることは、結果として正しい道であると言えます。
② 【要注意】事前に勉強しすぎた方
実は、正常な認知機能を持っているのにも関わらず落ちてしまう方の中で最も多いのがこのパターンです。 認知機能検査のイラストは全部で4つのパターン(A・B・C・D)があり、どれが出題されるかは当日まで分かりません。真面目な方ほど、警察庁のホームページなどからすべてのパターンを印刷し、毎日何時間も暗記の猛特訓をされます。 その結果どうなるか? 本番でパターンAのイラストが出ているのに、頭の中で勉強しすぎたパターンBやCのイラストとこんがらがってしまい、「あれ?刀だったっけ?ハサミだったっけ?」と大パニックを起こしてしまうのです。存在しないイラストを書いて自滅してしまうのは、典型的な「勉強のしすぎ(オーバーワーク)」による弊害です。
③ 当日の体調不良
高齢になると、その日の血圧の変動や、ちょっとした寝不足、あるいは天候の悪さ(気圧の変化)などで、極端に頭が働かなくなることがあります。体がだるい状態で無理をして受検し、全く集中できずに点数を落としてしまうケースです。
④ 極度の緊張(頭が真っ白になってしまう)
真面目で責任感が強い方ほど、「絶対に落ちてはいけない」「近所の人に知られたら恥ずかしい」とご自身に過度なプレッシャーをかけてしまいます。本番で鉛筆を持つ手がガタガタと震え、深呼吸もできず、知っているはずのイラストの名前が喉まで出かかっているのにどうしても文字にできない。極度の緊張によるパフォーマンスの低下も、大きな要因です。
4. もし落ちてしまったら? 焦らなくて大丈夫!
「でも、もし本番で頭が真っ白になって、36点未満になってしまったら……」 そんな最悪の事態を想像して震えている方もいらっしゃるでしょう。
大丈夫です。ご安心ください! 認知機能検査は、一度落ちてしまっても、再度(何度でも)受検し直すことが可能です。
1回目で極度の緊張や体調不良によって実力が出せず36点未満だったとしても、日を改めて2回目の検査を予約し、そこで落ち着いて36点以上を取ることができれば、何の問題もなくクリアとなります。1回目の失敗が免許更新の致命傷になることはありません。 (※ただし、2回目を受検する際も、1回目で不合格になった時の「検査結果通知書」の提出が求められることがありますので、恥ずかしいからといって破り捨てたりせず、大切に保管しておいてくださいね。)
なぜ「何度も受けられる」のに注意が必要なのか?
ただし、何度受検し直しても36点に届かなかった場合は、やはり「医師の診断」が必要なルートへと進むことになります。 ここで一つ注意点があります。点数が取れず、医師の診断を求められる状態になってから「じゃあもう面倒くさいし、免許は返納します」と逃げるように返納手続きをしようとしても、そのままスムーズに自主返納ができない場合があります。 状況によっては、自主返納ではなく「免許の取り消し」という行政処分の対象になるか、あるいは医師の診断書を出して処分を免れるかのどちらかになってしまうため、まずはリラックスして一発で36点以上を取り切ることが一番の得策です。
5. なるべく落ちないための「5つの事前準備」
本番で100%の力を発揮し、一発でサクッと36点以上を確保するために、ご自宅でできる「5つの事前準備」をお伝えします。
- ① あまり勉強しすぎない 先ほども申し上げた通り、全パターンの完全暗記は混乱の元です。「こんなイラストが出るんだな」と、試験の数日前にサラッと目を通しておく程度で十分です。満点を目指す必要はありません。
- ② 日頃から脳のトレーニングをしておく 検査用の勉強ではなく、日常的な脳トレが有効です。昨日の夕飯のメニューを思い出す、日記を書く、簡単な計算ドリルをするなど、脳に「思い出す」という汗をかかせる習慣をつけておきましょう。
- ③ 前日はしっかり睡眠をとる 脳の記憶を整理するためには、睡眠が何より重要です。前日は温かいお風呂に入り、最低でも7時間以上の睡眠を確保してください。睡眠不足は記憶力の最大の敵です。
- ④ 受検日が近づいたら体調を整える 風邪をひいたり、持病の数値が悪化したりしないよう、1週間前から食事と健康管理に気を配りましょう。体調が悪いと感じたら、無理をせず教習所に電話をして日程を変更してもらう勇気も必要です。
- ⑤ 当日パニックにならないよう、持ち物は前日に完璧に! 「ハガキが見つからない!」「老眼鏡を忘れた!」 当日の朝や受付で忘れ物に気づくと、それだけで心拍数が跳ね上がり、検査の点数に悪影響を及ぼします。特に「眼鏡」と「補聴器」は絶対に忘れないでください!イラストが見えない、試験官の説明が聞こえないというのは致命的です。前日の夜に、カバンの中にすべての持ち物をセットしておきましょう。
6. 現役指導員直伝!最強のメンタル術
さあ、いよいよ本番です。教室の席に座り、目の前に解答用紙が配られた時、心臓がバクバクしてきたら、現役指導員である私が提唱する「最強のメンタル術」を心の中で3回唱えてください。
「満点を取る必要なんて全くない。たった36点で大合格だ!」
そうです、半分以上間違えてもいいんです。分からないイラストがあっても、一向に構いません。「うわー、思い出せない!」とパニックになるのではなく、「はいはい、この絵はパス!次、次!」と、クイズ番組にでも参加しているような、明るく楽観的な気持ちで取り組んでください。
そして、もう一つのおまじない。
「もし今日落ちたとしても、また次受け直せばいいだけ。今日はそのための練習日だ。」
「これで自分の人生が終わる」と思うから緊張するのです。命を取られるわけではありません。今日の検査はあくまでリハーサル、小手調べ。そんな風に自分自身に言い聞かせて、良い意味で「開き直る」ことが、緊張をほぐす最大のスパイスになります。
まとめ:リラックスして臨めば、必ず本来の力が出せます
いかがだったでしょうか。 認知機能検査は、決して皆様の運転から遠ざけようと意地悪をしているわけではありません。皆様がこれからも安全に、長く豊かなカーライフを送っていただくための、ちょっとした「健康診断」のようなものです。
100点満点中、36点で合格。 落ちても何度でもやり直しがきく。 事前の勉強のしすぎは逆効果。
この3つの真実を知った今、皆様の肩にのしかかっていた重いプレッシャーは、随分と軽くなったのではないでしょうか。 ご家族の皆様も、親御さんが「検査が不安だ」とこぼされたら、ぜひ「36点でいいらしいよ。クイズみたいなものだから、気楽にいってきなよ」と、笑顔で背中を押してあげてください。
当日、教室の窓から深呼吸をして、リラックスした気持ちで鉛筆を握れば、必ず皆様の本来の実力が発揮できます。 現役の指導員として、皆様の「大合格」を心より応援しております!いってらっしゃい!

