こんにちは。とある指定自動車教習所で日々、ドライバーの皆様の安全教育に携わっている現役の教習指導員です。
前回の記事では、かつて「夢の未来都市」と呼ばれた多摩センター(多摩ニュータウン)が、開発から半世紀を経て直面している「オールドタウン化」の現実についてお話ししました。華やかな駅前と、高齢化が進み静まり返った団地群との強烈なコントラストは、この街のみならず、これからの日本全体が直面する課題そのものです。
では、このまま静かに衰退していくのを指をくわえて見ているしかないのでしょうか?
今回は、その超高齢化問題を一気に解決すべく、私なりに脳内で構想した「究極のまちづくり」についてお話ししたいと思います。 最初にお断りしておきますが、ここから先は「もしも莫大な国家予算を無制限に使っていいと言われたら?」という前提で描く、私の完全な妄想(思考実験)です。しかし、ただの絵空事と笑わずに、ぜひ最後までお付き合いください。この妄想の中にこそ、日本の未来を救うヒントが隠されているかもしれないからです。
1. 多摩センターが抱えるリアルな問題「超高齢化とインフラのミスマッチ」
前回の記事のおさらいも兼ねて、まずは現在の多摩センター周辺が抱えるリアルな問題点から整理してみましょう。
駅前のペデストリアンデッキや大型商業施設、サンリオピューロランド周辺は若者やファミリー層で賑わっています。しかし、そこから一歩離れた広大な居住エリア(団地群)のインフラは、現在の高齢者にとって決して優しいものとは言えません。
例えば、交通インフラ。多摩センター周辺は路線バスの網が張り巡らされ、本数も非常に多いです。しかし、幹線道路は幅が広く、一つの信号の待ち時間が非常に長いという特徴があります。足腰の弱った高齢者にとって、長い階段を登って歩道橋を渡ったり、長い信号を待ち続けるのは想像以上に過酷です。 その結果何が起きるか。教習指導員として道路を走っていて最もヒヤリとするのが、「信号も横断歩道もない片側2車線の幹線道路を、無理やり横断しようとする高齢者」の姿です。危険だと分かっていても、遠回りする体力がなく、ショートカットを強行してしまう。これは個人のモラルというより、インフラと身体能力の「ミスマッチ」が引き起こす構造的な問題なのです。
また、多摩丘陵に位置するこのエリアは、都心部に比べて冬場は雪が多く降る傾向にあります。かつては住民総出で行われていた雪かきも、若い世代が流出した現在では担い手がおらず、凍結した階段や坂道で転倒する高齢者が後を絶ちません。市の職員も対応に追われ、頭を抱えているのが現状です。
都市の再開発をしようにも、現在住んでいる何万もの高齢者をどこへ移住させるのか、そして広大な敷地を整備する莫大な資金をどうするのか。これはもはや多摩市単独の問題ではなく、東京都、いや国全体が国運を懸けて取り組むべき巨大なテーマなのです。
2. 現代の高齢者が抱える「5つの社会課題」
インフラの問題に加えて、高齢者自身が抱える社会的な課題も複雑に絡み合っています。大きく分けると、以下の5つに集約されます。
① 身体能力の衰えによる生活の質の低下 視力、聴力、反射神経、足腰の筋力。これらが低下することで、買い物に行くことすら困難になり、家に引きこもりがちになります。
② アルツハイマー等による徘徊・行方不明問題 認知症により、自分がどこにいるか分からなくなり徘徊してしまう問題。家族の介護負担は限界に達しており、最悪の場合は踏切事故や凍死といった悲惨な結末を迎えることも少なくありません。
③ 交通死亡事故率の高さ 私が最も直面している問題です。操作ミスによるアクセルとブレーキの踏み間違いや、逆走。高齢ドライバーによる凄惨な事故が連日ニュースを賑わせていますが、地方や郊外では「車がないと生活できない」ため、免許を返納できないというジレンマがあります。
④ 働きたくても働き口がない問題 「まだまだ元気だし、社会の役に立ちたい」という意欲を持つ高齢者は非常に多いです。しかし、現実の労働市場では年齢がネックとなり、彼らが安全に、自分のペースで働ける環境は圧倒的に不足しています。
⑤ 若者世代の「年金不安」と世代間対立 高齢者が増え続ける一方で、それを支える若者の数は激減しています。「自分たちが老人になった時、年金はもらえるのか?」という若者の絶望感は、高齢者への冷ややかな視線(世代間対立)を生み出しています。
高齢者が多く住む街は、必然的にこれらの課題を内包することになります。では、これをどうすれば一挙に解決できるのか。ここからが私の妄想の真骨頂です。
3. 【思考実験】すべてを解決する究極の街「多摩オールドニュータウン計画」
これからご提案するのは、現在の多摩ニュータウンを完全にスクラップ&ビルドし、国家プロジェクトとして構築する新たな特区、『多摩オールドニュータウン』の全貌です。莫大な費用は一旦度外視し、システムとルールの力で課題をねじ伏せる究極の街づくりです。
① 高齢者専用の「完全新規都市」を建設する
現在の高齢者が自然にいなくなるのを待つのは現実的ではありませんし、エレベーターもない古い5階建て団地をリノベーションしても、若者は魅力を感じません。 であれば、現在の高齢者にはそのままこの土地に残っていただき、エリア一帯を更地にして「完全にバリアフリー化された新しいスマートシティ」を構築します。しかも、それを逆手にとり、「入居できるのは高齢者のみ」という前代未聞の特区にするのです。
② 出入り口が1つの「テーマパーク型」と「全住民GPS管理」
この街最大の構造的特徴は、東京ディズニーリゾートなどのように「外界との出入り口(ゲート)が実質1カ所しかない」ということです。 そして、入居する全住人には、生体認証付きのウェアラブルデバイス(スマートウォッチ等)の装着を義務付け、「全住民のGPS位置情報をシステムが24時間把握する体制」をとります。
基本的人権の侵害だ、監視社会だという批判が必ず噴出するでしょう。しかし、これはあくまで「命を守るため」のシステムです。この完全管理によって、認知症による徘徊・行方不明者は「物理的にゼロ」になります。 さらに安全性を担保するため、タウン内に入場できるのは「タウンの住人」「許可された仕入れ業者」「医療・介護従事者」「警察・消防」のみに限定。外界の犯罪者や悪質な訪問販売業者は一切立ち入ることができません。
③ 完全キャッシュレスの「独自通貨」
コンビニやスーパーのレジで、高齢者が小銭を出すのに時間がかかり、後ろに長蛇の列ができている光景。誰もが悪気はないのに、お互いに気まずい思いをする瞬間です。 これを解消するため、タウン内では日本円の使用を禁止し、ウェアラブル端末をかざすだけの「IC決済専用の独自通貨(例:オールド・コイン)」を導入します。計算も小銭も不要。スムーズな買い物が可能です。 タウンの外に出る(ゲートを通過する)際や、家族に仕送りをする場合のみ、為替レートに応じて日本円に換金できるシステムとします。
④ タウン内での「多様な雇用創出」
健康寿命を延ばす最高の薬は「役割」と「労働」です。タウン内のインフラ運営は、基本的にすべて住人である高齢者自身が担います。 スーパーのレジ(システム化で簡単操作)、飲食店の調理や配膳、スポーツクラブのインストラクター、映画館のスタッフ、タウン内の農地での野菜作り、郵便配達、そしてタウン内の見回りを行う警備員(警察の代替わり)など、体力や能力に応じた多岐にわたる職業を用意します。 報酬は独自通貨で支払われます。所得税などは一切かかりませんが、働いて生み出された事業利益はすべてタウンの管理会社(運営主体)に上納され、街の維持費に還元される仕組みです。
⑤ 手動運転の完全禁止と「自動運転バス」
教習指導員である私が最も重視するのがこの項目です。タウン内では、自動車および自転車の「個人所有」と「手動運転」を完全に禁止します。これにより、悲惨な交通事故は根絶されます。 移動手段はどうするのか? タウン内の道路には、網の目状に専用レーンが敷かれ、システム制御された「完全自動運転の小型バス(ポッド)」が24時間絶え間なく巡回しています。停留所で端末をかざせば、どこへでも自動で運んでくれます。 もちろん歩くことも推奨されますが、歩行が困難な方のために、最高時速4kmに制限された「シニアカー(電動車いす)」のみ所有と通行を許可します。
⑥ 緊急時の対応(専用動線の確保)
外界から隔離されたテーマパーク型とはいえ、火災や急病、事件などの緊急事態は必ず発生します。そのため、メインゲートとは別に、外界の警察車両、消防車、救急車のみがICチップ認証で突破できる「緊急車両専用のゲートと地下動線」を張り巡らせ、いかなる場所へも数分以内に急行できるインフラを地下に構築しておきます。
⑦ 選挙による住人自治(厳格な任期制限付き)
街のルールを改善し、住人の意見を吸い上げるためには、自治機能が必要です。タウンの住人の中から、選挙によって10名程度の「代表者(評議会)」を選抜します。 ただし、高齢者のコミュニティで起こりがちな「町内会長の長期政権化による権力腐敗や老害化」を徹底的に防ぐため、任期は絶対に2年とし、連続しての再任は不可(生涯に1度しか就任できない等)とする強力なルールを定めます。常に新しい血と意見が入る風通しの良い自治を目指します。
⑧ 独自通貨による「ベーシックインカム」の導入
タウン内には、病気や重度の介護状態でどうしても働けない方も大勢います。そこで、住民には毎月、タウン内で最低限の衣食住が賄えるだけの独自通貨を一律で支給する「ベーシックインカム制度」を導入します。 日本の年金制度とは切り離された、タウン内限定のセーフティーネットです。これにより「お金がなくて餓死する」という不安は完全に払拭され、若者世代の社会保障費の負担感も(心理的に)軽減されます。
⑨ ヘルパー訪問主体の「医療システム」
高齢者だけの街となれば、最大のボトルネックは「病院のパンク」です。待合室がサロン化し、本当に治療が必要な人が診てもらえない事態を防がなければなりません。 そのため、基本の医療は「医療従事者(ヘルパーや看護師)の巡回・訪問診療」を主軸とします。ウェアラブル端末で日々のバイタル(心拍数や血圧)を管理し、異常があれば医療者が駆けつけるシステムです。病院の施設内は高度な処置や手術のみに特化し、回転率を極限まで高めるシステムを徹底します。
⑩ 莫大な運営資金のカラクリ
この夢のようなユートピアを維持する資金はどこから出るのでしょうか。 基本的には、「入会費用(持ち家や資産の現物出資など)」、外界の家族が面会に来る際の「入場通行料」、タウン内の農場や工房で作られた特産品の「外界への輸出販売」、そして、行方不明者捜索費や交通事故処理費などの社会的コストが激減することを評価した「国からの特別補助金」を組み合わせて運営します。
⑪ 最期を迎えた時のルール
人生の終幕についてもルール化します。限られた土地を有効活用するため、タウン内に個人のお墓は設置しません。お亡くなりになった場合は、外界の身寄りの方にお引き取りいただくか、身寄りがない場合はタウン内の美しい慰霊碑を備えた「集団埋葬(樹木葬など)」で、街の土に還っていただく形をとります。
4. 「オールドニュータウン」のメリットとデメリット
この狂気とも言える壮大な計画には、当然ながらメリットとデメリットが存在します。
【メリット】 最大のメリットは、何と言っても「日本の超高齢化社会が抱える致命的な課題(認知症の行方不明、交通事故、孤独死など)を、システムによって強制的に解決できる」という点です。 住民である高齢者自身にとっても、安全が完全に保障され、仕事と役割があり、金銭的な不安がない豊かな余生を送ることができます。若者にとっても、親をこのタウンに預けることで介護離職の恐怖から解放され、安心して自分の人生を歩むことができるようになります。
【デメリット】 やはり一番のネックは「莫大な初期費用」と、「基本的人権の制限」に関する猛烈な議論でしょう。 GPSで24時間監視され、外界から隔離された空間に高齢者を閉じ込めるのか、という批判は避けられません。まるでSF映画のディストピアのようだと感じる方もいるはずです。 もちろん、この街への入居は「完全なる任意」であり、いつ退去するのも自由です。しかし、この至れり尽くせりの快適で安全な生活に一度慣れてしまったら、危険で不便な外界(一般社会)には二度と戻れなくなる……という「施設化依存」の懸念こそが、最大のデメリットかもしれません。
まとめ:未来は妄想から始まる
いかがだったでしょうか。 久しぶりに多摩センターの街を歩き、高齢化した団地群を眺めながら、私の頭の中で膨らんだ「多摩オールドニュータウン計画」の全貌をお話ししました。
「こんなSFみたいな話、実現するわけがない」「人権を無視している」と不快に感じられた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これはあくまで「私にもし無尽蔵のお金があって、多摩センターを好きに改造していいよと言われたら」という、絶対にあり得ない前提の思考実験です。
ですが、もし……万が一、日本のどこかでこのような特区が実現し、成功を収めたとしたらどうでしょう。 国民の4人に1人が高齢者となるこの国において、日本中の様々なニュータウンが同じような「オールドニュータウン」へと生まれ変わり、高齢者問題の究極のモデルケースになるかもしれません。
この常軌を逸した妄想計画。 これが実現できるかを信じるか信じないかは、あなた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。安全な交通社会と、誰もが安心して暮らせる未来が来ることを、一人の指導員として心から願っています。

