昨今、ニュースなどで高齢ドライバーによる痛ましい事故が報じられるたび、「70歳を過ぎたら免許を返納させるべきだ」「年齢制限を設けるべきだ」という厳しい声が上がります。確かに、ブレーキとアクセルの踏み間違いなど、高齢者特有の「運転操作のミス」が事故の原因になりやすいのは事実です。
しかし、現場で多くのドライバーを見ている私は、「いくつになっても、安全に運転できる方は継続すべきである」という賛成派の立場です。車がなければ買い物や通院といった日常生活がままならない地域も多く、何より運転することが健康寿命を延ばすという側面もあるからです。
とはいえ、高齢になってからの免許更新は、決して一筋縄ではいきません。現在の制度では、免許を継続するためにいくつもの厳しい「壁」が用意されています。今回は、70歳以上の皆さんが乗り越えなければならない「8つの壁(関門)」について、分かりやすく解説していきます。
1. 制度の壁①:第1関門「高齢者講習」(70歳以上)
70歳を超えて免許を更新する際、最初に立ちはだかるのが「高齢者講習」です。 「試験に落ちたらどうしよう……」と不安になる方も多いですが、安心してください。これは「落とすための試験」ではなく、最後まで「受講」すれば必ずクリアできる講習です。
所持している免許によって、受講内容が少し異なります。
- 車の免許を持っている方: 実車指導、視力検査(静止視力・動体視力・夜間視力・水平視野)、講義を合わせた「2時間」の講習です。
- 原付や二輪の免許のみの方: 実車指導はなく、視力検査と講義のみの「1時間」の講習になります。
実車指導では、教習所のコースをゆっくり走りながら、「①右左折」「②一時停止」「③信号に従った運転」「④指定された速度での走行」「⑤段差の乗り上げ」の5つの課題を行います。 実は今、警察庁はこの課題の中に「方向変換(バック)」も追加しようと考えているようです。この裏話については、次回の記事で詳しく取り上げたいと思います。
2. 制度の壁②:第2関門「認知機能検査」(75歳以上)
75歳以上になると、高齢者講習に加えて「認知機能検査」が必要になります。記憶力や判断力を確認する検査ですが、これがご高齢の方にとって大きなプレッシャーになっています。
普段はまったく問題なく生活できているのに、いざ検査となると「絶対に失敗できない」と変に緊張してしまったり、事前に予習をしすぎたせいで頭の中がごちゃごちゃになり、本来の力が出せなくなってしまうケースがとても多いのです。最大の対策は、「とにかくリラックスして、落ち着いて臨むこと」です。
ちなみに、普段の生活には支障がなくても、この検査で「境界知能(平均的な知能と知的障害の間の状態)」ではないかと疑われる方も一定数いらっしゃいます。このデリケートな問題についても、今後の記事で深掘りしていく予定です。
3. 制度の壁③:第3関門「運転技能検査」・第4関門「臨時認知機能検査」
令和4年の法改正により、75歳以上のドライバーに対する制度がさらに厳しくなりました。私は、悲惨な事故を防ぐためには、この厳格化は大賛成です。
- 第3関門「運転技能検査」: 過去3年間に特定の交通違反(信号無視や速度超過など11種類)をした人が受ける検査です。これは講習ではなく、「落とすための試験」です。内容は実車指導と同じですが、50年間で染み付いた「悪い運転の癖」が抜けていないと、ここで不合格となり免許が失効してしまいます。
- 第4関門「臨時認知機能検査」: 75歳以上で特定の違反(逆走や一時不停止など18種類)をしてしまうと、免許更新の時期に関係なく、突如として呼び出されて受ける認知機能検査です。ここでも基準に満たなければ、免許取り消しの対象となります。
4. 日常・環境の壁:第5〜第8関門
制度の壁を越えても、まだまだ油断はできません。日常の中にも壁は潜んでいます。
- 第5関門(手続きと記憶の壁): 高齢者講習は「いつ、どこへ行きなさい」と指定されるわけではなく、自分で教習所などに電話して予約を取らなければなりません。ハガキを見落としたり、混み合っていて予約が取れなかったりと焦ることも。逆に、早く受講しすぎると、今度は「修了証明書をどこかに失くしてしまった」「更新手続きに行くこと自体を忘れてしまった」という罠に陥る方も後を絶ちません。
- 第6関門(家族の猛反対): 最も身近で強力な壁がご家族です。「おじいちゃん、もう危ないから運転はやめて!」と反対されるケースです。自分では大丈夫と思っていても、家族は危なさに気づいているのかもしれません。もし反対されたら、「なら、病院の通院や日々の買い物の足になってくれよ」と交渉してみてください。ご自身の生活の質を落とさないための、大切な話し合いです。
- 第7関門(車の維持費): 年金暮らしの中で、税金、保険料、車検代、ガソリン代といった車の「ランニングコスト」を払い続けるのは、家計にとって重い負担になります。経済的な理由で車を手放す方も少なくありません。
- 第8関門(体調の壁): 大病を患ったり、急激に体力が落ちてしまったりした時。ここが運転を辞める「潮時」となるケースも多いです。ただし、免許を返納した後に体力が回復し、「やっぱりまた運転したい」と後悔する方もいらっしゃいますので、返納の判断はご家族や主治医と相談しながら慎重に行いましょう。
まとめ:知識で武装し、サバイバルを生き残れ
いかがでしたでしょうか。70歳以上の皆さんが免許を継続するためには、これら8つの関門を次々とクリアしていかなければなりません。
それはまるで、一つでも失敗すればそこで脱落してしまう、過酷なデスゲームを描いた大ヒットドラマ「イカゲーム」の高齢者版(サバイバル)のようにも思えます。
この過酷なサバイバルを生き残り、いつまでも安全に運転を楽しみ続けるためには、正しい「知識」を身につけておくことが何よりの武器になります。これからも、このブログでは皆さんの運転継続に役立つ情報を発信していきますので、ぜひまた読みに来てください。応援しています!

