【指導員のホンネ】今の運転技能検査は「おままごと」。事故を本当に減らすための「2つの劇薬」

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高齢者講習

[前回の記事(前編)]では、2026年6月に警察庁が発表した衝撃的なデータ――高齢ドライバーの運転技能検査(実車試験)に合格した人の方が、違反のない高齢者よりも Unfall率(事故率)が格段に高い(70代後半では約4.5倍)という現実と、現行制度が抱える致命的な穴(無限再受験、コースの暗記)について解説しました。

国もこの事態を重く受け止め、有識者検討会を立ち上げて制度の厳格化(採点基準の強化、受検回数制限、ドラレコ活用など)を議論しています。2026年8月中には方向性がまとまる予定です。

しかし、日々現場で高齢ドライバーの講習や検査を担当し、助手席で彼らの「リアルな運転」を見続けている私から言わせれば、現在議論されている程度の「見直し」では、はっきり言って何も変わりません。交通事故は減りません。

今回は、後編として、国の生ぬるい議論に対する現場のプロとしての「痛烈なホンネ」と、私が考える、本当に日本の交通事故を減らすための「2つの劇薬(抜本的提言)」について、熱く語らせていただきます。

1. 大前提:事故を起こすのは「高齢者」ではなく「道路交通法を守らない人」である

議論のすり替えを防ぐために、まず大前提のお話をさせてください。 メディアでは「高齢ドライバー=危険」というレッテル貼りがされがちですが、本質はそこではありません。

道路交通法という法律は、その第一条(目的)に以下の3つを掲げています。

  1. 道路における危険を防止すること
  2. 交通の安全と円滑を図ること
  3. その他道路の交通に起因する障害の防止に資すること

つまり、道交法とは「安全に、円滑に、危険を防止するためのルール」です。 ということは、逆説的に「道交法を守らない人(交通違反をする人)」は、必然的に事故を起こしやすくなるのです。ルールの根幹を守っていないのですから、当然です。

これは、高齢者に限った話ではありません。20代だろうが50代だろうが、信号無視や速度超過を平気でするドライバーは、危険防止ができず、事故につながる可能性が極めて高い。

今回の法改正の議論において、対象が「高齢者」になっているのは、加齢による身体能力・認知能力の低下という「掛け算」によって、違反時のリスクがさらに跳ね上がるからに過ぎません。「違反者=事故の予備軍」であるという事実は、全年齢共通の大前提であることを、まずは頭に入れておいてください。

2. なぜ日本の高齢ドライバー対策は「迷走」し続けるのか?

そもそも、なぜ令和の今になって、この実車試験(運転技能検査)の見直しがこれほど大騒ぎになっているのでしょうか。これまでの経緯を振り返ると、国の対策が「迷走」してきた歴史が見えてきます。

  • 平成29年(2017年)法改正:この時は「認知症」がキーワードでした。認知機能検査で「記憶力・判断力が低い」と判定された人の講習を強化し、医師の診断によって免許取り消しにするなど、「認知機能」重視の対策がとられました。
  • しかし、数年後の調査で判明したのは…:「認知機能検査の結果が良い人でも、重大事故を起こしている」という現実でした。

そこで、国は方針を転換します。「認知機能も大事だが、それ以上に『特定の交通違反』をする人こそが重大事故を引き起こす傾向がある」と気づいたのです。

  • 令和4年(2022年)導入:特定の違反(信号無視、速度超過など)歴がある75歳以上の高齢者に対し、免許更新前に高齢者講習とは別に、実際に車を運転させる「運転技能検査」を受検させ、不合格なら免許を更新させないという制度がスタートしました。

そして今、2026年。 その鳴り物入りで始まった「運転技能検査」が、「合格者の方が事故を起こしている(全く効果が見られない)」として、再び議論のテーブルに乗っている。これが現状です。

なぜこれほどまでに効果が出ないのか。それは、国の有識者たちが、教習所の助手席で起きている「リアルな現実」を知らないからです。

3. 現場のホンネ「今の技能検査は、単なる高齢者の集会です」

ここからは、現場の指導員としての強烈なホンネをぶつけさせていただきます。

現在行われている「運転技能検査」に対し、国は採点基準の厳格化などを議論していますが、私に言わせれば、「あんな検査、何度見直しても無駄」です。

はっきり言います。今の運転技能検査は、交通安全のための試験などではありません。「おままごと」や「単なる高齢者の集会」に過ぎないのです。

人間の根幹は、20分の検査で変わらない

前回も指摘しましたが、今の検査は、指定されたコースを、指定されたルール(一時停止、信号など)に従って、たった20分程度走るだけです。

交通ルールを理解しておらず、自己流運転で何十年も事故を起こさなかった(たまたま運が良かった)人たちが、違反をして教習所にやってきます。彼らは交通ルールを理解できていないからこそ違反を繰り返し、事故のリスクが高まっている。その事実は、教習所のコースを1回走らせて「合格」のハンコを押したところで、何一つ変わりません。

あんな甘い検査を1回やったからといって、人間の根幹(安全意識、ルールの理解度)が変わるわけがないのです。

審査が甘すぎて「お遊び」になっている

しかも、現在の採点基準は、現場の人間からすると「あまりにも甘すぎる」と言わざるを得ません。

「信号無視」や「逆走」のような一発不合格の危険走行をしない限り、多少安全確認が遅れたり、一時停止が甘かったりしても、70点はクリアできてしまいます。ほとんどの人が、特に苦労することなく難なく通過していく。

結局、交通ルールの重要性を再認識させることも、自身の能力低下を自覚させることもできない。名前だけの単なる「お遊び」に過ぎない。そんなことは、何年もかけて有識者会議で議論するようなことではありません。現場では、導入初日から分かっていたことです。

4. 有識者の見直し案では「何も変わらない」と断言できる理由

では、現在国が議論している「見直し案(厳格化)」が実現したらどうなるか。現場目線で、一つひとつバッサリと斬らせていただきます。

案1:採点方式・確認項目の厳格化

「安全確認の基準を厳しくする」という案。一見良さそうですが、根本的な解決になりません。 前編で述べた通り、高齢ドライバーはコースを「暗記」してやってきます。採点項目が厳しくなれば、彼らは「厳しくなった採点ポイント」を暗記するだけです。その場しのぎで首を左右に振るフリをするだけで、交通ルールが心から染み込まなければ、公道に出ればまた元の木阿弥です。意味がありません。

案2:受検回数に限度を設ける

「無限再受験」をなくすという案。一見、危機感を煽るように見えます。 しかし、現場のデータを見ると、実はほとんどの高齢ドライバーは1回目、遅くとも2回目の受検で合格しています。 つまり、受検回数に上限(例えば3回まで)を設けたところで、合格率や事故率にはほとんど影響が出ません。現場のジレンマである「コースを暗記して偶然受かってしまう人」への対策には全くなっていないのです。

案3:テクノロジー(AI・ドラレコ)の活用

「公道運転をAIで判定する」という中長期的検討案。これについては、現場の業務が崩壊します。 「誰がその膨大なドラレコの映像データをチェックして、AIの判定結果を検証するのですか?」 私たち教習所は、高齢者のためだけの施設ではありません。これから免許を取る若い世代の教習、外国籍の方の講習、企業研修など、膨大な業務を抱えています。レベル3、レベル4の自動運転インフラが整った未来ならまだしも、現時点でこのような手間のかかるシステムを導入すれば、教習所の業務は回りなくなり、本来の免許取得教習に支障が出ます。

5. 【指導員の提言】本当に事故を減らすための「2つの劇薬」

今の議論の延長線上では、日本の高齢ドライバー問題は解決しません。 国が本気で、高齢者の凄惨な事故や交通違反を軽減したいと考えているなら、これまでの「甘え」を捨て、これくらいの動き(劇薬)を見せなければ、はっきり言って何も変わりません。

もし私が有識者会議に出席させてもらえるなら、このくらいのことは堂々と提案したい。現場のプロとしての提言です。

交通事故を劇的に減らすための問題の本質は、以下の2点です。

  • 問題の本質A:高齢者は長年の自己流運転でルールの更新ができておらず、必要最低限のルールすらわかっていない。
  • 問題の本質B:運転免許更新時の検査や講習があまりにも簡単すぎるため、交通違反に対する「危機感」を全く持っていない。

これを踏まえた、2つの提言です。

提言一:【全年齢対象】違反をした者には、次回の免許更新時に「学科試験」を義務化する

老若男女問わず、交通違反をした者は、交通ルールを正しく理解していない、あるいは軽視している可能性があります。 であれば、年齢に関係なく、更新前3年間に違反歴があるすべてのドライバーに対し、次回の免許更新時に「学科試験(文章問題+イラスト問題)」を受験させ、合格しなければ運転免許を更新させないというルールを導入すべきです。

車を動かす技術(実車)以前に、法律(ルール)を理解できているかを確認する。これこそが道路交通法の本質です。これで、「長年運転しているからルールなんてわかっている」という高齢者の思い込み(ルールの未更新)を打ち砕きます。

提言二:違反をしたら即座に「運転技能検査」を受検させ、基準は「新規取得時の検定基準」と同等にする

今の法律では、運転技能検査は「更新時(3年に1回)」に行われます。しかし、これでは遅すぎます。違反をした直後に、その危険性を認識させなければ意味がありません。

現在の臨時認知機能検査(特定の違反をしたら更新時を待たずに受検)と同じように、「特定の交通違反をしたら、全年齢において(または高齢者に限り)、〇日以内に運転技能検査を受検しなければならない」という即時ルールに切り替えます。違反ごとに対象とするのです。

そして、その審査基準は、現在の甘い合格基準ではなく、私たちが新規で運転免許を与える際の「検定基準(例えば一時不定や信号無視は一発不合格)とか、大回りしたら5点減点とか」と同等レベルまで引き上げます。 この検査に合格しなければ、その場で免許を「停止」または「取り消し」とする。

これくらいの強烈な危機感と、高いハードルを持たせる施策を講じなければ、交通違反や事故を起こす高齢者の意識は絶対に変わりません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。 2回にわたってお話ししてきた、高齢ドライバーの運転技能検査(実車試験)の実態と法改正の動き。

前編で示した「合格者の方が事故を起こしている」という衝撃のデータ。そして後編でぶつけた、現場の最前線にいる人間としての「今の検査はおままごとである」というホンネ。

私がご提案した「2つの提言(劇薬)」は、政治的には非常に難しい、多くの反発を招く内容かもしれません。しかし、一人の教習指導員として、何よりも尊い「人の命」を守り、悲惨な事故の被害者も加害者も出さない交通社会を実現するためには、これくらい抜本的で、痛みを伴う改革が必要だと心から信じています。

国が本当に交通安全を願うなら、これくらいの覚悟を見せてほしい。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。皆様が、今日の運転から、もう一度交通ルールの重みを再認識してくださることを願っています。