【現役指導員が解説】75歳以上の免許更新「認知機能検査」の本当の意味とは?

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高齢者講習

こんにちは!私は、指定自動車教習所で現役の教習指導員・検定員として働きながら、日々多くの高齢ドライバーの皆様の講習や検査に携わっています。

75歳のお誕生日が近づき、ご自宅のポストに警察から「運転免許証の更新手続のお知らせ」のハガキが届いた時。多くの方が「ついにこの時が来たか……」と重いため息をつき、大きな不安を抱えられていることと思います。

私の勤める教習所でも、受付にいらっしゃる多くのお客様から、 「このテストに落ちたら、その日のうちに免許を取り上げられちゃうんでしょ?」 「国が高齢者から無理やり免許を取り上げるための、意地悪な試験なんだろう?」 といったお声を毎日のようにお聞きします。

しかし、どうかご安心ください。そして、正しく知ってください。 認知機能検査は、「単に合格しないと免許取り消しになる」というような、そんな単純で冷酷なものではありません。

この記事では、長年現場で高齢ドライバーの皆様と接してきた現役指導員の視点から、認知機能検査の「本当の目的」と「仕組み」、そしてこれが決して高齢者だけの問題ではないという深いテーマについて、分かりやすく解説していきます。

この記事をお読みいただければ、検査に対する「怖い」「意地悪だ」という誤解が解け、スッと肩の力が抜けるはずです。ぜひ最後までお付き合いください。

1. そもそも「認知機能検査」とは?(「落ちたら即取り消し」は誤解です!)

まずは、「認知機能検査とは一体何なのか」という基本の仕組みからご説明します。

認知機能検査は、75歳以上のドライバーが運転免許を更新する際に、道路交通法によって受検が義務付けられている「記憶力と判断力の検査」です。

テストの内容は驚くほどシンプルで、主に以下の2つしかありません。

  • 時間の見当識: 「今日は何年の、何月、何日、何曜日ですか?」といった、現在の日時を答えるテスト。
  • 手がかり再生: 16種類のイラスト(大砲、ラジオ、百合など)を覚え、少し別の作業をした後で、何が描かれていたかを思い出すテスト。

そして、現在の採点基準では100点満点中「36点以上」を取れれば合格(認知症の恐れなし)となります。半分以上間違えてもクリアできる、非常にハードルの低い設定になっています。

「点数が足りないと即免許取り消し」ではありません

皆様が一番誤解されているのがここです。 もし、当日の緊張や体調不良で36点未満になってしまったらどうなるのでしょうか?その場で免許証を没収されて、歩いて帰らなければならないのでしょうか?

答えは「絶対にNO」です。

検査で36点未満だった場合、「記憶力や判断力が少し低下している可能性があるので、念のためお医者さんの詳しい診察を受けてきてくださいね」という「医師の診断への橋渡し」が行われるだけです。 その後、専門医の診察を受け、医学的に「認知症である」という確定診断が下された場合にのみ、初めて免許の取り消しや停止といった手続きに進みます。

つまり、認知機能検査は「落とすための試験」ではなく、認知機能の低下が疑われる方を早期に見つけ出し、医療へと繋ぐための「健康診断(スクリーニング)」に過ぎないのです。

2. なぜ75歳から? 検査が導入された「本当の理由」

では、なぜこのような検査が75歳以上のドライバーに義務付けられたのでしょうか。

ニュースなどで、高齢ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み間違い事故や、高速道路の逆走事故が報じられるのを、皆様も目にしたことがあると思います。悲しいことですが、年齢を重ねるにつれて、とっさの判断力が遅れたり、周囲の状況を正しく認識する力が衰えたりするのは、誰にでも起こり得る自然な変化です。

警察や教習所は、決して「高齢者から免許を奪いたい」わけではありません。長年無事故で社会を支え、安全運転を続けてこられた大先輩方のカーライフを、できる限り長くサポートしたいと心から願っています。

しかし、車は一歩間違えれば、ご自身の命だけでなく、他人の命をも奪ってしまう危険な乗り物です。 ご自身の身体や脳に起きている「自然な変化」に気づかないまま運転を続けることの恐ろしさを防ぐために、「75歳」という一つの区切りを設け、客観的にご自身の状態を振り返っていただく機会を作ったのです。

3. 「加齢による物忘れ」と「認知機能の低下」はどう違う?

「最近、人の名前がすぐに出てこないから、私も認知症かもしれない……」と心配される方がいらっしゃいます。しかし、安心してください。「単なる物忘れ」と、検査で見つけようとしている「認知機能の低下(認知症)」は、全く別物です。

分かりやすい例えで説明しましょう。

  • 加齢による正常な物忘れ: 「あれ?昨日の夕飯、何を食べたっけな……ああ、そうだ、カレーライスだった!」 このように、体験したことの「一部」を忘れ、後から思い出せたり、ヒントをもらって思い出せたりするのは、誰もが経験する正常な物忘れです。
  • 危険な認知機能の低下: 「夕飯? 私は昨日の夜、ご飯なんて食べていないよ!」 このように、夕飯を食べたという「体験そのもの」がすっぽりと抜け落ちてしまい、ヒントをもらっても思い出せない。あるいは「誰かが私の夕飯を隠したんだ!」と事実とは違う認識を持ってしまう。これが認知機能の低下です。

認知機能検査の「16枚のイラストを思い出すテスト」も、単なる記憶力を試しているわけではありません。ヒントを与えられた時に「あ、そういえばそんな絵があったな」と記憶を引き出せるかどうか、つまり「正常な物忘れの範囲にとどまっているか」を見極めるためのものなのです。

4. 高齢者だけの問題ではない!若いうちから意識すべき「脳の健康」

ここで一つ、現役指導員として強くお伝えしたい警鐘があります。 この認知機能検査について、「親の免許更新の問題でしょ?」「自分はまだ40代、50代だから関係ない」と思っている若い世代のご家族は少なくありません。

しかし、認知機能の低下は、75歳になった日を境に突然起こるものではありません。

日々の食生活の乱れ、運動不足、睡眠不足、そして社会的な孤立など、若い頃からの「生活習慣の蓄積」が、数十年後の脳の健康に直結しています。生活習慣病(高血圧や糖尿病など)は、認知症のリスクを大きく高めることが分かっています。

つまり、親御さんの認知機能検査は、ご家族や若い世代にとっても「明日は我が身」と捉えるべき重要なサインなのです。 「どうせお年寄りのテストでしょ」と他人事にするのではなく、若いうちから日々の脳トレ、適度な運動、バランスの取れた食事を意識し、一生涯にわたって安全な運転を続けられる「脳の健康」を築いていく必要があります。この検査は、世代を超えて自分たちの生活を見直すための、大切なきっかけなのです。

5. 検査は「落とすため」ではなく、あなたを「守るため」

最後になりますが、私は教習所で講習を受ける高齢ドライバーの皆様に、いつもこうお話ししています。

「自動車には、2年に1回『車検』がありますよね。車検を受けずにボロボロのブレーキで走ったら命に関わります。認知機能検査は、皆様の『頭の車検(定期点検)』なんです。

ご自身の認識と、実際の脳の働きにズレが生じていないか。それを客観的なテストで確認することは、決して恥ずかしいことではありません。万が一、ご自身の認知機能に低下が見られた場合、そのまま運転を続けて取り返しのつかない悲惨な事故を起こしてしまう前に、運転をストップできる。これは、ご自身の命はもちろん、ご家族の笑顔や、道路を歩く見知らぬ子どもたちの命を守るための「強固な防波堤」なのです。

「落とされたらどうしよう」と怯える必要はありません。 今の自分自身の状態を正しく知るための、大切な健康診断です。

どうか、「ただの頭の定期点検だ」とリラックスして、気負わずに教習所へお越しください。私たち指導員は、皆様が安心して検査を受けられるよう、全力でサポートいたします!