こんにちは。自動車教習所で日々、高齢ドライバーの皆様の講習や検査に携わっている現役の教習指導員です。
75歳以上の運転免許更新で必須となっている「認知機能検査」。皆さま、この検査に向けてイラストを覚えたり、時計を確認したりと、真剣に対策をされていることと思います。そして、無事に合格点である「36点以上」を取れたときには、「これでまた3年間は安心して車に乗れる!」と、ホッと胸を撫で下ろす方がほとんどです。
しかし、現場で多くの高齢ドライバーを見守ってきた私から、本日は少し厳しい現実をお伝えしなければなりません。
「認知機能検査をクリアしたからといって、次の更新まで絶対に安心」という考えは、今すぐ捨ててください。
実は現在の免許制度において、75歳以上のドライバーは、更新時だけでなく「日々の運転」そのものが厳しくチェックされています。たった一度の「うっかり違反」や、ちょっとした「接触事故」が引き金となり、想像以上に過酷な検査が次々と課される仕組みになっているのです。
本日は、認知機能検査の裏に潜む「免許継続サバイバル」とも言える厳しい現実と、そこから見えてくる「免許の本当の必要性」について、指導員の目線から包み隠さずお話しします。
1. 違反がトリガーに!「運転技能検査」と「臨時認知機能検査」
「3年に1回の更新時だけ、教習所でちゃんとしていれば大丈夫」 もしそんな風に考えているとしたら、それは大きな間違いです。現在の道路交通法では、75歳以上のドライバーに対して、特定の交通違反をきっかけに発動される2つの大きな「壁」が用意されています。
① 免許更新時の大きな壁「運転技能検査(実車テスト)」
2022年5月の道路交通法改正により、非常に厳しい制度が導入されました。それが「運転技能検査」です。 75歳以上の方で、過去3年間に特定の交通違反(信号無視、一時不停止、通行区分違反など、11基準の違反)を犯したことがある人は、免許更新の際に、教習所のコースを実際に車で走る「実車テスト」を受けなければなりません。
このテストは、認知機能検査のような「点数が低くても一定の基準を満たせばOK」という甘いものではありません。
- 100点満点からの減点方式で採点されます。
- 第一種免許なら70点以上を残さなければ合格になりません。
- 更新期間満了日まで何度でも再受検は可能ですが、最終的に合格できなければ、容赦なく免許の更新が拒否(事実上の免許失効)となります。
「一時停止の標識があったけれど、見通しが良かったから徐行で通り過ぎてしまった」「黄色信号から赤に変わるギリギリで交差点に入ってしまった」 こうした日常の「ちょっとした気の緩み」による違反が記録されていると、数年後の免許更新の際に、自分の首を激しく絞めることになるのです。
② 更新の年でなくても呼び出される「臨時認知機能検査」
さらに恐ろしいのは、免許更新のタイミングでなくても課される検査があることです。 75歳以上のドライバーが、信号無視や一時不停止などの特定の交通違反をした場合、その時点で「臨時認知機能検査」を受けるよう公安委員会から通知が届きます。
「前回の更新で認知機能検査をクリアしたばかりだから関係ない」とはいきません。違反をしたことで「認知機能が低下しているのではないか?」と疑われ、臨時で検査に呼び出されるのです。もしこの臨時検査の結果が悪化していれば、臨時高齢者講習を受けなければならず、最悪の場合は後述する医師の診断へと進むことになります。
つまり、75歳を超えたら「更新の年以外も、常に警察から監視されている」という強い危機感を持つ必要があるのです。
2. 認知機能低下が疑われる事故は「医師の診断」で即刻取り消し
単なる交通違反だけでなく、交通事故を起こしてしまった場合は、事態はさらに深刻になります。
高齢ドライバーによる事故の中には、ブレーキとアクセルの踏み間違いや、逆走、極端な判断の遅れなど、「明らかに認知機能の低下が原因ではないか?」と疑われるケースが少なくありません。
警察や公安委員会が、事故の状況や違反の内容から「認知機能に問題がある可能性が高い」と判断した場合、テストの点数や講習の有無に関わらず、専門医の診断書の提出が求められます。
そして、医師の診察により「認知症である」と診断された場合、その時点で【即刻、運転免許取り消し(または停止)】となります。
「長年無事故でやってきたんだから」「まだ自分はしっかりしているから」というプライドは、専門医の診断の前では通用しません。 これまでは「少し物忘れが増えたかな」と家族が心配するレベルであっても、いざ車に乗って重大な過失による事故を起こせば、一発でドライバーとしての資格を失う。それが今の法律です。
車は非常に便利な乗り物ですが、一歩間違えれば人の命を奪う凶器にもなります。だからこそ、身体能力や認知機能に少しでも不安が見られるドライバーに対しては、これほどまでにシビアな対応が取られるようになっているのです。
3. 常に崖っぷち? 75歳からの「免許継続サバイバル」
ここまでお話ししてきた内容を振り返ってみてください。
- 3年に1回の「認知機能検査」をクリアしなければならない。
- 過去3年間に違反があれば、更新時に厳しい「運転技能検査(実車テスト)」に合格しなければならない。
- 日常で特定の違反をすれば、時期を問わず「臨時認知機能検査」に呼び出される。
- 認知機能低下が疑われる違反や事故を起こせば、「専門医の診断」となり、認知症なら即座に免許取り消しとなる。
いかがでしょうか。現在の高齢ドライバー向けの免許制度は、「違反なく、事故なく、安全な運転を継続できなければ、あの手この手で免許をストップさせる仕組み」になっています。
私はこれを、あえて「免許継続サバイバル」と呼んでいます。
教習所に講習や検査に来たその日の数時間だけ、指導員の前で「安全確認をしっかりしているフリ」をしても全く意味がありません。 警察は、そして周囲のドライバーや歩行者は、あなたの日々の運転をしっかりと見ています。
75歳を超えたら、「日々の道路での運転そのものが、毎日の試験(実車テスト)である」と思ってください。 一時停止の標識では、タイヤが完全に止まるまでブレーキを踏む。横断歩道に歩行者がいれば、絶対に止まって道を譲る。制限速度を厳守し、無理な車線変更はしない。 こうした基本中の基本を毎日100%こなせる人だけが、この過酷なサバイバルを生き残り、免許を更新し続けることができるのです。
4. 免許を一番「長持ち」させる方法は、皮肉にも〇〇だった
さて、この厳しすぎる「免許継続サバイバル」を絶対に生き残り、絶対に免許を失効させない、究極にして確実な方法が一つだけ存在します。 それは何だと思いますか?
正解は、「絶対に運転しないこと(車に乗らないこと)」です。
車を運転しなければ、交通違反で捕まることはありません。 違反がなければ「運転技能検査」も「臨時認知機能検査」も免除されます。 運転しなければ交通事故を起こすこともないので、医師の診断で免許を一発取り消しにされるリスクもゼロになります。 そのまま3年後の更新を迎え、簡単な認知機能検査と通常の講習だけを受ければ、また無事に免許証を手に入れることができます。
しかし、ここで立ち止まって考えてみてください。
「免許を維持するために一番安全で確実な方法が『運転しないこと』であるならば、そもそもその運転免許、今のあなたの生活に本当に必要でしょうか?」
「どうしても自分の車がないと病院に行けない」「買い物に行く手段が他に全くない」という地域にお住まいの方もいらっしゃるでしょう。そうした方々にとっては、車はまさに生命線であり、細心の注意を払って運転を続ける必要があります。
ですが、「週に一度、近所のスーパーに行くだけ」「子供が休みの日に乗せていってくれるから、実はあまり運転していない」「もし何かあったら怖いから、雨の日や夜は乗らないようにしている」というのであれば、少し立ち止まって生活の棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。
車を維持するには、ガソリン代、保険料、車検代、税金など、多額の費用がかかります。そのお金をタクシー代や公共交通機関、便利な買い物代行サービスなどに回した方が、実ははるかに安全で豊かに暮らせるケースも非常に多いのです。
まとめ:車を手放すことは、決して「敗北」ではありません
75歳からの免許制度は、皆さまの安全と、周囲の命を守るために年々厳しくなっています。 日々の運転が常に試験であり、少しのミスが命取りになる「免許継続サバイバル」。これを緊張感を持って生き抜き、安全運転を徹底することは素晴らしいことです。
しかし、もしその緊張感がプレッシャーになり、「運転するのが怖い」「もうサバイバルに疲れた」と感じるのであれば、「車を手放す(免許を返納する)」という選択肢を、ぜひ前向きに検討してみてください。
免許返納は、決してドライバーとしての敗北ではありません。 ご自身の心身の変化を正しく見極め、大きな事故を起こす前に「無事故でドライバー人生を終える」という、非常に勇気ある立派な決断です。
私たち指導員は、皆さまが安全に運転を続けられるよう全力でサポートしますが、同時に「美しい引き際」を選ぶ皆さまのことも、心から尊敬し応援しています。 どうか今一度、ご自身の日々の運転と、これからの生活にとって本当に免許が必要なのかを、ご家族と一緒に話し合ってみてくださいね。

