2026年4月1日に施行された改正道路交通法により、自動車が自転車を追い越す際のルールが大きく変わりました。 これまで曖昧だった「安全な間隔」が明確に数値化され、車だけでなく自転車側にも厳しい義務が課されるようになりました。違反すれば反則金(青切符)の対象にもなります。
しかし、この新ルール、実際の道路事情に照らし合わせると**「ある致命的な矛盾(ジレンマ)」**を抱えています。今回は新ルールの詳細と、現場のドライバーを悩ませる「黄色い線」の問題について、指導員としてのリアルな本音で斬り込みます。
1. 新ルール解説:車と自転車、それぞれの義務と罰則
今回の改正(道路交通法第18条第3項・第4項の新設)では、車と自転車の双方に「安全な間隔を保つ義務」が規定されました。
自動車側の義務(第18条第3項)
自動車が自転車の右側を通過(追い越し・追い抜き)する際、以下の対応が求められます。
- 十分な間隔が確保できる場合: 原則として**「1.5m以上(最低でも概ね1m以上)」**の安全な側方間隔を保って通行しなければなりません。
- 十分な間隔が確保できない場合: 自転車が不意にフラついたりしても即座に対応・停止できる「安全な速度(警察庁見解で概ね時速20km以下)」まで減速して進行する必要があります。
特に、大型車が自転車のすぐ横を高速で通過する際の「風圧」による転倒リスクなどは厳しく見られます。これらに違反した場合、普通車で反則金7,000円の対象となります。
自転車側の義務(第18条第4項)
車側に減速を強いる一方で、追い越される側の自転車にも義務が課されました。
- 左側端への寄り: 自動車に追い越される際、自転車はできる限り道路の「左側端」に寄って通行し、円滑な通行を妨げないようにしなければなりません。
もし、車が安全な間隔を空けようとしているのに、自転車がわざと道路の中央寄りを走り続けて進路を妨害した場合、自転車側も「被側方通過車義務違反」として青切符(反則金5,000円)の対象となります(※16歳以上対象)。
2. 最大のジレンマ「黄色の中央線」でどうする?
ここまでは法律の建前です。 問題は、実際の道路で側方間隔(1.5m)を空けられない代表的なシチュエーション、**「中央線が黄色(はみ出し追い越し禁止)」**の道路を走っている時です。
ここに、とんでもない矛盾が生じます。
- 問題点1: 自転車との間隔1.5mを確保するために黄色い線をはみ出して追い越せば、当然「はみ出し通行禁止違反」になるのではないか?
- 問題点2: 「はみ出してはいけないから」と、時速15〜20kmで走る自転車の後ろを、自動車が延々と時速20km以下で金魚のフンのように走り続ければどうなるか。あっという間に大渋滞を引き起こします。
道路交通法の第1条には、法律の目的として**「交通の安全と『円滑』を図る」**と明記されています。法律を守った結果、大渋滞を引き起こして交通の円滑を完全に阻害してしまうという、法体系の根幹を揺るがす大矛盾が起きているのです。
3. 指導員の本音と結論:捕まるのか?自分はどうするのか?
では、黄色い線をはみ出して自転車を追い越した場合、警察に捕まるのでしょうか?
私個人の見解としては、よほどのことがない限り、取り締まりの対象にはならないのではないかと推測しています。「よほどのこと」とは、対向車が来ているのに無理にはみ出して危険を生じさせたり、それが原因で交通事故を起こしたりした場合です。 実際、SNSなどでは警察車両自身が黄色い線をはみ出して自転車を追い越している動画も散見されます。法律が変わったばかりの今だからこそ世間の注目を集めていますが、現場の運用として、安全に配慮した上での自転車の追い越しまで厳格に取り締まられる可能性は低いと考えられます。
しかし、です。 あくまでも条文上は、追い越しのために黄色い線をはみ出す行為は「明確な違反」です。万が一、警察官に止められて切符を切られそうになったとき、「自転車を安全に追い越すためだった」「渋滞を作らないためだった」という言い訳は、法律上は一切通用しません。
結論として、私自身はどうするのか。 私は教習所の指導員であり、運転免許を失うわけにはいかない仕事をしています。したがって、「絶対に黄色い線をはみ出して追い越すことはしません」。 どれだけ後ろが大渋滞になろうと、時速15kmで自転車の真後ろを走り続けます。違反をして責任を問われるのは自分自身だからです。
理不尽な法律の矛盾の中で、最終的にリスクを背負うのは現場のドライバーです。 安全が確認できるならはみ出して抜くか、渋滞を作ってでも法律を墨守するか。現時点ではドライバーの「自己責任」に委ねられていると言わざるを得ません。
あとは、現場の実情に合った何かしらの法改正や通達を待つしかない、というのがプロとしての正直な本音です。

