前回の記事では、75歳以上の免許更新における「運転技能検査」や「高齢者講習」に、激ムズ課題である「方向変換(バック)」が導入される可能性について、警察庁の思惑とともに解説しました。
前回までの内容はこちらをご覧ください。 【免許更新が激変】なぜ高齢者の「運転技能検査」に方向変換が導入されるのか?合格率90%のザル検査にメスを入れる警察庁の思惑
さて、この「方向変換の導入」は、受講者にとって難易度が跳ね上がるという問題だけにとどまりません。実は、現場レベルではもう一つの極めて深刻な事態が起きようとしています。
それは、**「高齢者講習の予約が、今以上に全く取れなくなる」**という絶望的な未来です。 今回は、一般の方が絶対に知り得ない「教習所の儲けのカラクリ」を暴露しつつ、制度変更が招く最悪のシナリオについて解説します。
1. 新たな課題が招く「もう一つの大問題」
現在でも「高齢者講習の予約が半年待ち」というニュースをよく耳にすると思います。 ただでさえパンク状態の教習所現場ですが、もしここに「方向変換」という新たな課題が追加されるとどうなるか。
結論から言うと、講習のシステムそのものが物理的に破綻し、受け入れ枠(定員)を大幅に削らざるを得なくなります。 その理由を理解していただくためには、まず「教習所がいかにして高齢者講習で利益を上げているか」という裏事情を知っていただく必要があります。
2. 知られざる教習所のカラクリ「3号課程と4号課程」
受講される高齢者の方から見れば、高齢者講習は「ただの1つの講習」にすぎません。しかし、教習所の視点から見ると、実は**「2つの種類」**が存在します。
- ① 3号課程(公安委員会からの委託) 主体が警察側(公安委員会)にあるため、講習料金は全国一律で安価に設定されています(※2026年時点で6,600円・税込など)。
- ② 4号課程(教習所が独自に行う「認定教育」) 主体が教習所にあるため、講習料金を教習所が自由に設定できるのが最大の特徴です(非課税)。
※この2つの制度の詳しい違いについては、こちらの記事をご参照ください。 【2025年最新版】高齢者講習の4号課程とは?3号課程との違いや免許更新との関係も解説!
高齢ドライバーにとって、講習は「免許を更新するために絶対に受けなければならないもの」です。つまり、どれだけ価格が高くても需要が尽きることはありません。 そのため、独自に料金を設定できる「4号課程」を実施している教習所では、講習料金が高騰する傾向にあり、結果として教習所がボロ儲けできるシステムになっているのです。
3. 年間1億4,000万円!?「回転率」が生むボロ儲けの仕組み
では、儲け主義の教習所がどのようにして莫大な利益を生み出しているのか、その計算式を暴露しましょう。
3号課程でも4号課程でも、講習のルール(実施基準)は全く同じです。
- 定員: 指導員1名に対して、受講者は最大5名まで。
- 走行距離: 慣らし運転300m + 実車指導コース1,200m = 合計1,500m以上走らせること。
このルールの中で利益を最大化するカギは、**「いかに決められた時間内で、多くの高齢者を効率よく回すか(回転率)」**です。
例えば、建前上「地域の多くの高齢者のため」と言いつつ、指導員2名で受講者10名(5名×2組)を1セットとします。 これを1日で5回転させると、1日に50名こなすことができます。 年間350日稼働したとすると、50名 × 350日 = 年間17,500名。 もし講習料金を8,000円に設定していれば、17,500名 × 8,000円 = 年間1億4,000万円の売上になります。
高齢者講習だけで年間1億円を裕に超える売上を叩き出す。これが「回転率の魔法」であり、教習所ビジネスの要なのです。
4. 制度崩壊:「方向変換」が回転率をぶっ壊す
さて、ここで前回の「方向変換導入」の話が繋がってきます。
高齢ドライバーにとって、狭い枠にバックで車を入れる「方向変換」は、非常に難易度が高い課題です。当然、一発で入れられる方は少なく、何度も切り返しを行ったり、指導員が外から誘導・説明したりと、1人あたりにかかる時間が大幅に長くなります。
もし、現在の「1人あたり合計1,500m以上走らせる」という現行ルールを維持したまま、この「方向変換」が追加されたらどうなるでしょうか。
答えは明確です。2時間の講習枠の中で、5人全員を回し切ることは物理的に不可能になります。
時間内に終わらせるための解決策はただ一つ。1講習あたりの**「受講者の受け入れ人数(定員)を減らす」**ことしかありません。 (例えば、1名の指導員につき「最大5名」だったものを「最大3名」などに減らすなど)。
定員を減らさざるを得なくなれば、先ほど計算した「年間1億4,000万円」のビジネスモデルは完全に崩壊します。4号課程で利益を出していた儲け主義の教習所にとっては、まさに死活問題の大打撃となるでしょう。
5. まとめ:最大の被害者は「予約が取れない高齢者」
「教習所が儲からなくなるなら、自業自得じゃないか」 そう思われるかもしれません。しかし、教習所の定員削減のシワ寄せは、最悪の形で受講者(高齢ドライバー)に跳ね返ってきます。
- 予約難民の爆発的増加: ただでさえ数ヶ月待ちで取りづらい予約枠がさらに削減され、期限内に講習を受けられない高齢者が続出します。
- 更新率の低下: 講習や技能検査自体の難易度が上がり、技術的にも心理的にも更新を諦める人が増えます。
日本は超高齢化社会であり、高齢ドライバーの人口はまだまだ増え続けています。 それにも関わらず、受け皿(教習所の定員)を強制的に減らしてしまうような制度改悪をして、本当に大丈夫なのでしょうか?
警察庁の真の目的は、「合格率の抑制」なのか、「車庫入れ事故の減少」なのか。それとも、単に制度を物理的に回らなくすることで「高齢ドライバーを社会から強制的に減らしたい」だけなのでしょうか。
この大混乱必至の制度変更に対して、今後警察庁がどのような見解や救済措置を示してくるのか。現場の人間として、いささかの皮肉と大きな不安を抱きながら、今後の動向を楽しみに待ちたいと思います。


