はじめに
横断歩道は、道路交通法によって歩行者が優先されるべき場所と定められています。
しかし、警察庁とJAF(日本自動車連盟)が毎年実施している「信号機のない横断歩道での一時停止率調査」によると、ドライバーの歩行者優先意識は長らく低水準のままでした。
ところが近年、この優先率は大きく改善しています。
この記事では、2016年から2024年までのデータ推移をもとに、歩行者優先率の変化とその背景を徹底解説します。
歩行者優先率の推移(2016〜2024)
以下のグラフは、信号機のない横断歩道で歩行者がいるときに一時停止した車の割合(全国平均)を示しています。
年度 | 一時停止率(全国平均) |
---|---|
2016年 | 7.6% |
2017年 | 8.5% |
2018年 | 8.6% |
2019年 | 17.1% |
2020年 | 21.3% |
2021年 | 30.6% |
2022年 | 39.8% |
2023年 | 45.1% |
2024年 | 53.0% |
データから見える3つのポイント
① 2018年までの停滞期(約8%前後)
2016〜2018年の一時停止率は約8%前後で推移し、ほとんど改善が見られませんでした。
この時期は横断歩道での歩行者優先が話題になることは少なく、ドライバーの意識も低いままだったと言えます。
② 2019年以降の急上昇
2019年には一時停止率が 17.1% と、前年の約2倍に急上昇。
これはJAFや警察庁が全国規模で「歩行者優先啓発キャンペーン」を展開し、メディアでも横断歩道の優先義務が大きく取り上げられた影響が大きいと考えられます。
③ 2020年代の加速と50%突破
2020年以降も着実に上昇し、2024年にはついに 53.0% に到達。
特に2021年〜2024年の伸びは顕著で、全国の半数以上のドライバーが停止する水準にまで改善しました。
歩行者優先率が上昇した背景
- 交通安全キャンペーンの強化
警察庁・JAF・自治体がSNSやテレビCMで「横断歩道は歩行者優先」を繰り返し啓発。
地域ごとに横断歩道での一時停止率を公表し、競争意識を高めたことも効果的でした。 - 道路交通法違反の取り締まり強化
2018年頃から「横断歩行者等妨害」での検挙件数が増加。
反則金や違反点数(2点)の周知も進み、違反リスクを避ける心理が働いたと考えられます。 - 高齢ドライバーの免許更新制度改正
75歳以上の高齢運転者は、過去3年間に横断歩行者等妨害を含む特定違反があると運転技能検査が必要になりました。
「違反すると免許更新ができない」ことが強い抑止力になっています。 - ドラレコ普及による“見られている”意識
ドライブレコーダーの普及により、マナー違反がSNSやニュースで拡散されやすくなりました。
「歩行者優先違反が全国に晒されるリスク」が、運転行動を変化させています。
それでも残る課題
一時停止率が50%を超えたとはいえ、裏を返せばまだ約半数の車が歩行者を優先していない という現実があります。
特に課題となるのは以下の点です。
- 地方部での低水準:都市部に比べ地方では一時停止率が依然として低く、20%台の地域も存在。
- 通勤時間帯の減速不足:急いでいる時間帯ほど停止率が低下する傾向。
- 「渡る意思」判断の難しさ:スマホ操作中や立ち止まっている歩行者をどう判断するかは依然として課題。
安全運転のためにできること
- 「迷ったら止まる」を習慣化する
歩行者が渡るかどうか迷ったら、減速ではなく一時停止を選びましょう。 - 速度コントロールの徹底
横断歩道手前では必ず減速し、停止できる速度で進入。 - 地域別の傾向を知る
自分の地域の一時停止率を確認し、低い場合は意識的に改善を心がける。
まとめ
2016年から2024年にかけて、日本の横断歩道における歩行者優先率は 7.6%から53.0%へと大幅に改善 しました。
これは行政・警察・市民が一体となって啓発を続けた成果であり、確実に意識改革が進んでいる証拠です。
しかし、依然として半数近くの車が停止していない現状もあります。
横断歩道は歩行者の命を守る“安全地帯”であるべき場所。
「止まるべきか迷ったら止まる」という意識を、私たち一人ひとりが持ち続けることが、今後のさらなる改善につながります。