人に何かを教わるとき、「この人の教え方、すごく分かりやすいな」と感動することもあれば、「何を言っているのか全く頭に入ってこない……」とフラストレーションを感じることもありますよね。
私たち教習指導員の仕事は、車の運転技術や道路交通法を教えることです。しかし、残酷な真実を言います。 いくら運転技術がプロ級でも、いくら道交法の知識が完璧でも、目の前の教習生を上達させることができなければ、それは「クソ指導員」です。
「いやいや、それは教習生のセンスや知能レベルの問題でしょ?」 もしそんなふうに思っている指導者がいるとすれば、それは完全に指導者側の甘えです。指導者の力量一つで、受講者の習熟度は天と地ほど変わります。
1. これぞ自己満足!「ダメな指導員」あるある
「長年勤めているベテランだから、教えるのも上手いだろう」というのは大きな勘違いです。私が教習生からのヒアリングなどを通じて見聞きしてきた、絶対に当たりたくない「ヤバい指導員」の特徴を挙げてみましょう。
- 上手くならないのを教習生のせいにする
- イライラしているのを隠そうともしない
- 教習生の態度が悪いと、釣られて自分の態度も悪くなる
- 見本を見せる時、教習生が絶対に届かないような高レベルな技術を見せつけてドヤる
- ただ淡々と説明しているだけ、あるいはただ世間話をしているだけ
- 「これくらいできて当然でしょ」という態度で接する
- ガミガミ怒る、挙句の果てには助手席で寝る
言い出したらキリがありません。 はっきり言います。もしこれらに自覚がある指導員がいるとすれば、それは指導ではなく単なる**「指導員のマスターベーション」**です。ただの自己満足。自分は「教えている」という事実だけに酔いしれ、肝心の「相手を上達させる」という結果を放棄している状態に過ぎません。
2. 恩師の教え:教習所は「感動業」である
私がまだ新米指導員だった頃、恩師からこんな質問をされたことがあります。 「教習所というのは、『サービス業』ですか? それとも『教育業』ですか?」
私は「両方だと思います」と答えました。しかし恩師は「私はどちらも違うと思う」と首を振り、こう言いました。 **「教習所は『感動業』です」**と。
要するに、教習生に感動を与える仕事なのだ、と。感動を与えれば、教習にかかる決して安くない費用にも満足してもらえるし、何より習熟度が飛躍的に上がっていく。サービスや教育は、その後から自然とついてくるものなのだと教わりました。
では、教習における「感動」とはいつ生まれるのか? それは、**「一つでも自分が成長したと実感できた時」**です。 「1日10人指導するなら、1人でいいから感動を与えなさい」。その言葉を胸に、私は「できなかった時の自分」と「できるようになった時の自分」を明確に比較させ、成長を実感してもらえる指導を常に心がけています。
3. 相手の心を動かす「パーフェクト指導員」の条件
相手の心を動かすには、マニュアル通りではなく「心に直接話しかける」必要があります。しかし、指導を単なる「仕事」と割り切り、工場のライン作業のように業務をこなしているだけの人間には、これができません。新米指導員も、マニュアルをこなすのに一生懸命になりすぎて空回りしがちです。
相手の心にスッと入り込める「神指導員」には、人間力に裏打ちされた共通の条件があります。
- 心にゆとりがあり、話し方が常に落ち着いている
- 相手が100%理解できる言葉を選び、例え話が絶妙に面白い
- 上から目線ではなく、視点が常に対等
- 見本は、教習生が「頑張れば手が届きそう」なギリギリのラインで見せる
- 失敗しても絶対に怒らず、解決策を優しく論理的に導いてくれる
分かりやすい具体例を挙げましょう。「左折時に車を左に寄せきれなかった教習生」に対する声かけの違いです。
❌ ダメな指導員 「なんで今、左に寄せられなかったの?」 「今の幅、どのくらい離れてたか分かってる?」 (※具体的に詰め寄り、相手を委縮させるだけ)
⭕️ 神指導員 「今、カーブに入る速度も、安全確認の視点も完璧でしたね! そこであともう少し左に寄せられていたら、すべてパーフェクトでした! じゃあ次は、その『寄せること』だけに集中してやってみましょうか?」
お分かりでしょうか。相手に具体的な反省の弁を求める必要なんてないのです。「完璧だった部分」を認めて成功体験を積ませ、次なる目標をポジティブに提示する。これだけで、教習生の吸収力は何倍にも跳ね上がります。
まとめ:教習生も「指導員を選ぶ」時代
今回の記事は、「私が完璧な指導員だ」と自慢したいわけではありません。教習生の視点に立った時、あるいは後輩を育成する立場として、「こんな指導員であってほしい」という強烈な願いを込めて書きました。
もし今、あなたが教習所に通っていて、心を動かされるような素晴らしい指導員に出会えたなら、迷わず**「指名」制度を利用してください。逆に、あなたのせいにして不機嫌になるようなダメな指導員に当たったら、我慢せずに「忌避(チェンジ)」**を申し出てください。教習料金は決して安いものではありません。質の高い指導を受ける権利があなたにはあります。
そして、あらゆる業界で「教える立場」にある皆様。 知識や技術をひけらかすだけの自己満足になっていないか。相手の心を動かし、「できた!」という感動を与えられているか。 「究極の指導法」とは何か、この記事が改めて見直すきっかけになれば幸いです。

