車の運転において、最も基本的かつ事故に直結する要素。それが**「速度(スピード)」**です。
皆さんは普段、メーターの数字をどれくらい意識して走っていますか? 「前の車に合わせてなんとなく」 「急いでいるからちょっと速めに」
そんな感覚でアクセルを踏んでいるとしたら、それはとても危険なことです。 今回は、車の速度について、物理的な視点と法律的な視点、そして「心の視点」から改めて解説します。
1. 車は時速何キロで走っているのか?
まず、私たちが普段操っている「速度」というものが、生物としてどれほど異常なものか、クイズ形式で比べてみましょう。
① 人が歩く速度 これは簡単ですね。だいたい時速4kmほどです。
② 人類最速の男 記憶に新しいところでは、昨年(2025年)9月14日に国立競技場で行われた「世界陸上東京大会」。 男子100m決勝で優勝したジャマイカのオブリク・セビル選手が叩き出した記録は、自己ベストの9秒77でした。 これを時速に換算すると、平均で約37km/h。トップスピードの瞬間は時速44km以上にもなります。 生身の人間が原付バイク(30km/h制限)を追い抜くレベルですが、これはあくまで選ばれしトップアスリートの話。
③ 競走馬(サラブレッド) 競馬のラストスパートなどは、時速60〜70kmほど。 一般道の車の法定速度と同じくらいです。
④ チーター 地上最速の動物、チーターは時速100〜120kmで走ることができます。 これは高速道路の車と同じレベルです。
⑤ 飛行機 ジェット旅客機は時速900kmほど。
何が言いたいかというと、私たちはアクセルを少し踏むだけで、人類最速の男を置き去りにし、地上最速のチーターと並ぶ速度を、いとも簡単に出せてしまうということです。 鉄の塊がその速度で動くエネルギーは凄まじいものです。その「恐ろしさ」を忘れてはいけません。
2. 「何も書いてない道」は何キロ?法定速度のキホン
では、法律の話に入りましょう。 道路には「ここは何キロまで出していいよ」という決まりがあります。 大きく分けて**「法定速度」と「規制速度」**の2つです。
まずは**「法定速度」**。 これは、標識や標示による速度指定がない道路における最高速度のことです。
- 一般道路:時速60km (※原付は時速30km)
- 高速自動車国道(本線車道):時速100km
ここまでは学科教習で習った通りですが、ここからが落とし穴です。
【罠】高速道路っぽいけど「60キロ」の道
首都高速道路などの「自動車専用道路」。 景色は高速道路と同じように見えますが、ここは法律上「高速自動車国道」ではありません。 そのため、標識で指定がない場合、**法定速度は一般道と同じ「時速60km」**になります。 「高速道路だと思って100キロ出してたら、実は60キロ制限で、40キロオーバーで捕まった(免許停止)」という失敗は、非常によくあるケースです。
【新ルール】2026年9月から!生活道路の「30キロ」規制
そして、ドライバーの皆さんに絶対に知っておいてほしいニュースがあります。 今年、2026年の9月から、道路交通法の改正により新しいルールが適用される予定です。
これまでは標識がなければ一律60km/h(一般道)でしたが、改正後は**「センターラインのない生活道路(道幅が狭い道路)」などにおいては、標識がなくても「法定速度30km/h」**となります。 住宅街の細い道を「標識がないから60キロ出していい」という理屈は通らなくなります。 施行まであと半年ほど。今のうちから意識を変えておきましょう。
3. 標識が優先!「規制速度」の例外
次に**「規制速度」です。 これは、赤丸に青数字の「最高速度」の道路標識などで指定された速度のことです。 この標識がある場合は、法定速度よりも標識の数字が優先**されます。
例えば:
- 一般道だけど「40」の標識がある → 時速40kmまで(法定速度60kmより低い)。
- 自動車専用道路だけど「80」の標識がある → 時速80kmまで(法定速度60kmより高い)。
- 新東名高速道路の一部区間などで「120」の標識がある → 時速120kmまで(法定速度100kmより高い)。
「標識がない=法定速度」 「標識がある=その数字」 この原則を常に頭に置いて運転してください。
4. 制限速度=安全な速度ではない
ここが、指導員として一番伝えたいことです。
「ここは時速60キロ道路だから、60キロで走る権利がある」 「30キロ規制の道路だから、30キロまでなら出しても安全だ」
そう思っていませんか? それは大きな間違いです。
規制速度や法定速度は、あくまで法律上の**「上限(リミット)」であって、「推奨速度」ではありません。**
例えば、制限速度30kmの住宅街。 学校帰りの子供たちが歩いていたり、見通しの悪い交差点があったりします。 そんな状況で、法律ギリギリの30kmで走るのが正解でしょうか? もし子供が飛び出してきたら、30kmでも致命傷を与えてしまいます。
状況によっては、20km、あるいはすぐに止まれる徐行速度(10km以下など)で走らなければなりません。 これを**「安全運転の義務(道交法第70条)」**と言います。 「制限速度内だったから悪くない」という言い訳は、事故が起きた時には通用しないのです。
まとめ:速度は「腕」ではなく「心」で決める
車の運転において、速度を決めるのはアクセルペダルではありません。 あなたの**「心」**です。
「速く走れること」は、運転の上手さとは何の関係もありません。今の車なら、誰でも踏めばスピードが出ます。 本当の運転上手とは、 「同乗者が怖がらず、歩行者が脅威を感じない速度を選べる人」 のことです。
皆さんの腕前や車の性能を過信せず、常に「優しさ」を基準に速度をコントロールしてください。 それが、あなた自身と大切な人の命を守ることになります。
次回予告 「前の車との距離、近すぎませんか?」 次回は、速度と同じくらい重要な**「車間距離」**について詳しく解説します。 詰めすぎるとあおり運転? 開けすぎると割り込まれる? プロが教える「適切な距離」とは。お楽しみに!


