第1章:修了検定前日の悲劇
事件は、修了検定を翌日に控えた夕暮れ時に起きました。 教習生は、自宅近くの道路で、家族の車を使って運転の練習をしていました。 バック駐車や発進の手順など、翌日の試験に向けた最終確認のつもりだったのでしょう。
しかし、その車は見慣れない動きをしていたため、近隣住民が不審に思い警察に通報。 駆けつけた警察官によって、その場で無免許運転として処理されました。
なぜ、公道で練習してしまったのか
事情を聞くと、練習を持ちかけたのは教習生の母親でした。 実は、この母親は外国籍の方でした。 母国では、免許取得前に親が同乗して公道で練習することが許容されている地域だったのかもしれません。あるいは、単に「家の近くだから大丈夫」という認識だったのかもしれません。
しかし、ここは日本です。 日本の法律では、仮免許を持たずに、あるいは教習指導員等の資格者なしに公道で運転することは、立派な犯罪です。
母親に悪気はなかったのかもしれません。 実際、母親が見本を見せて運転を交代し、教習生本人がハンドルを握っていた時間はわずかだったそうです。 しかし、たとえ数メートルでも、ハンドルを握ってアクセルを踏めば、それは「運転」です。
「不審車」として通報される時代
また、通報された経緯も現代の世相を反映しています。 現場は、普段その家の人しか通らないような「私道」に近い道路でした。 「家の前だし、誰も通らないから」と高をくくっていたのでしょう。
しかし、昨今は強盗事件や空き巣などのニュースが多く、住民の防犯意識は極めて高くなっています。 閑静な住宅街で、行ったり来たりを繰り返す見慣れない車がいれば、誰だって警戒します。 「怪しい車がいる」と通報されるハードルは、昔よりも格段に下がっているのです。
第2章:法律の壁「私有地なら無免許で乗っていいのか?」
よく、このような質問を受けます。 「家の敷地内や、私道なら免許がなくても運転していいんですよね?」
答えは、**「場合によるが、ほとんどのケースでNO」**です。
道路交通法上の「道路」とは
道路交通法で言う「道路」とは、国道や県道だけを指すのではありません。 たとえ個人の敷地(私有地)であっても、**「不特定多数の人や車が自由に通行できる状態」**であれば、そこは道路(みなし公道)とみなされます。
- スーパーやコンビニの駐車場
- ゲートのない私道
- 公園内の通路
これらはすべて、法律上は「道路」です。したがって、ここで無免許で運転すれば検挙されます。
無免許運転にならない「完全な私有地」とは、以下のような場所に限られます。
- 柵やゲートで完全に囲われており、他人が自由に入れない場所。
- 自動車教習所のコースや、サーキット場。
今回のケースも「自宅近くの私道」でしたが、郵便屋さんが通れたり、近所の人が散歩できたりする状況であれば、そこは「道路」です。 「家の前だから」という言い訳は、法律の前では一切通用しません。
第3章:厳罰化の歴史と「2年間の代償」
無免許運転の罰則が、昔に比べて非常に重くなっていることをご存知でしょうか。
かつては、無免許運転の行政処分は「19点」で、免許を取れない期間(欠格期間)は「1年」でした。 しかし現在は、「違反点数25点」、**「欠格期間2年」**に強化されています。
この教習生は、これから2年間、免許試験を受けることすらできません。 就職や進学で免許が必要だったとしても、その道は閉ざされてしまいました。
きっかけとなった「京都亀岡暴走事故」
なぜ、ここまで厳しくなったのか。 その背景には、2012年に京都府亀岡市で発生した悲惨な事故があります。
無免許の少年が運転する車が集団登校中の小学生の列に突っ込み、児童と妊娠中の女性を含む計3名が亡くなり、7名が重軽傷を負いました。 この事故は日本中に衝撃を与え、「無免許運転に対する罰則が軽すぎる」という世論の猛反発を招きました。 これを機に法改正が行われ、無免許運転は「一発で免許取り消し、さらに2年間は取得不可」という重い処分になったのです。
母親も「免許取り消し」の可能性
そして、この事件のもう一つの恐ろしい点は、**「同乗していた母親」**も罪に問われるということです。
「無免許運転幇助(ほうじょ)罪」 無免許の人に車を貸したり、運転するようにそそのかしたり、同乗したりした人も、運転者と同等の罰を受けます。
今回のケースでは、母親も免許を持っていたそうですが、教習生の子供が無免許運転で検挙されたことで、母親の免許も取り消し処分(欠格期間2年)となる可能性が極めて高いです。 「子供の練習に付き合っただけ」で、親の免許まで失う。これが無免許運転の連帯責任の重さです。
第4章:恐怖の事例集「知らなかった」が生む連鎖
「悪気はなかった」「知らなかった」 この言葉が通用しない事例は、過去にもたくさんありました。私が担当した教習生の中にも、再取得組として来られた方がいます。
事例①:恐怖の「また貸し」連座
ある教習生(Aさん)の話です。Aさんは普通免許と大型二輪免許を持っていました。 ある日、友人のBさん(免許あり)に自分の原付を貸しました。 ここまでは問題ありません。 しかし、Bさんが、さらに友人のCさん(無免許)にその原付を貸してしまったのです。
Cさんは無免許運転で検挙されました。 その結果、どうなったか。 運転していたCさんはもちろん、貸したBさん、そして全くその場にいなかった持ち主のAさんまでもが、「無免許運転幇助」や車両提供の罪で取り締まりを受けたのです。
Aさんは「Cさんに貸した覚えはない!」と主張しましたが、管理責任を問われ、持っていたすべての免許を失い、欠格期間を経て私の教習所へ再取得に来られました。 「車(バイク)を貸す」とは、自分の人生を他人に預けるのと同じくらいリスクがある行為なのです。
事例②:車両区分の罠(トラックの重量)
もう一つは、免許制度の複雑さを知らずに検挙されたケースです。
その方は「準中型免許(5t限定)」を持っていました。 仕事で「最大積載量2トンのトラック」を運転しました。 免許の条件は「最大積載量3トン未満」までOKなので、一見すると問題ないように思えます。
しかし、警察に止められ、無免許運転となりました。なぜか? そのトラックの**「車両総重量」が5トンを超えていた**からです。
準中型(5t限定)免許は、「車両総重量5トン未満」までしか乗れません。 最近の2トントラックは、保冷車やパワーゲートなどの架装により、車両総重量が5トンを超えているもの(5.5トンなど)が多く存在します。 「2トントラックだから乗れると思った」という勘違いにより、彼は「中型自動車」を無免許で運転したことになり、免許を取り消されました。
第5章:まとめ ― 知識こそが最強の防衛策
今回の教習生と母親のケースも、上記の事例も、共通しているのは「ルールの認識不足」です。 母親が外国籍であったことは背景の一つですが、日本の公道を走る以上、「日本の法律を知らなかった」という弁明は通用しません。
2年間の欠格期間。 これは非常に重い罰ですが、京都の事故のように、無免許運転は人の命を容易に奪う行為です。そのリスクを考えれば、当然の報いとも言えます。
これから免許を取る方、そしてすでに免許を持っている方へ。
- 「私有地」の判断を甘く見ない。 誰かが入れる場所はすべて道路です。
- 絶対に車を他人に貸さない。 貸した相手が何をするか、あなたにはコントロールできません。
- 自分の免許で乗れる車を正しく理解する。 特にトラック関係は複雑です。
知らなかったことが「罪」になるのが車社会です。 面倒くさがらずにルールを勉強し、確認すること。 それが、あなたの大切な免許と、あなた自身の人生を守る唯一の手段なのです。
今回の教習生のような悲劇が、二度と起きないことを願っています。

