春は、新生活に向けて「ペーパードライバー講習」の需要が急増する季節です。 免許は持っているけれど、長年ハンドルを握っていない奥様やお子様。 そんな彼らを見て、運転に自信のある旦那さんや親御さんは、こう言いたくなるものです。
「教習所なんて高い金払わなくても、俺が教えてやるよ」
その親切心、ちょっと待ってください。 現役の指導員として、ハッキリ申し上げます。 身内による運転指導は、99%失敗します。
失敗するだけならまだマシです。最悪の場合、夫婦喧嘩で家庭の空気が最悪になったり、教えられた側がトラウマを抱えて「もう二度と運転したくない」と免許を封印してしまうケースが後を絶ちません。
なぜ、家族だと上手くいかないのか? 今日は、私の身内に実際に起きた「悲劇」と、プロだけが知っている「教える技術」の違いについて、本音でお話しします。
1. 【実話】私の兄嫁が「運転をやめた」決定的な瞬間
これは、私の兄夫婦に実際に起きた出来事です。 当時、ペーパードライバーだった兄嫁が運転し、兄が助手席に乗って指導をしていました。
悲劇が起きたのは、片側2車線の道路での「進路変更」の瞬間でした。 兄嫁は車線変更をしようとしましたが、変更先の車線には後方から車が迫っていました。明らかに流れが合わず、今入るのは危ないタイミングです。
しかし、不慣れな彼女はそれに気づかず、ハンドルを切ろうとしました。 その瞬間、助手席の兄は大声でこう言い放ったのです。
「信じられない! なんで車が来てるのに進路変更しようとするんだ!」
……結果、どうなったと思いますか? 兄嫁は深く傷つき、自信を完全に喪失しました。 「私は運転に向いていないんだ」 そう判断し、それ以来一切、車を運転しなくなってしまいました。
兄に悪気はありませんでした。ただ、危ないから驚いて怒鳴ってしまった。 でも、初心者には「見えていない」だけなんです。わざと危ない運転をする人なんていません。 そこへ人格を否定するような言葉を投げかければ、どうなるか。 これが「身内指導」の恐ろしい結末です。
2. プロならどうする? 「成功体験」を演出する技術
もしあの時、助手席に座っていたのが指導員の私だったらどうしていたか。 絶対に怒鳴りません。そもそも、口で指示すらしません。
私がやるのはこれだけです。 「黙ってハンドルを押さえ、行かせない」
進路変更しようとするハンドルをそっと押さえて阻止し、後ろの車をやり過ごさせます。 そして、安全なタイミングが来たら、スッと手の力を抜く。 すると、運転している本人は「自分で安全なタイミングで入れた」と感じます。
「成功体験」を与えるのです。
そして、車を安全な場所に停め、落ち着いてからこう言います。 「さっき、後ろから速い車が来てたの、気づいてた?」 そうすると、本人は「えっ、気づかなかった」と冷静に振り返ることができます。 そこで初めて、「次はミラーのここを見てみようか」と教えれば、スッと頭に入るのです。
運転中にグチグチ言うのは「三流」です
運転中、初心者の脳内はパニック状態です。 そんな時に横から「ブレーキ早い!」「もっと右!」なんて言われても、処理しきれません。 集中力を奪い、焦らせ、さらなるミスを誘発するだけです。
私たちプロは「補助ブレーキ」があり、いつでも車を止められる安心感があるから冷静でいられる部分はあります。 しかし、それを差し引いても、「運転操作中に横でギャーギャーうるさい指導員」がいるとしたら、それは指導員としてのレベルが低いと言わざるを得ません。
3. 20年かけて気づいた「教える」ということの本質
偉そうなことを言っていますが、私も最初からこうだったわけではありません。
私は免許を取得した初日から一人で乗り回し、すぐに運転のアルバイトを始めたような「感覚派」でした。運転技術はすぐに身についたため、指導員になりたての頃は、教習生に対してこう思っていました。 「なんでこんな簡単なことができないの?」
しかし、この仕事をして20年以上。 私はようやく、**「教えられる側の気持ち」**を想像できるようになりました。
このタイミングで言われたら、どう感じるか? どんな言葉なら、心に届くか?
家族に教えようとしているお父さん。 あなたの指導は、「オナニー(自己満足)」になっていませんか?
厳しい言葉を使いましたが、これは教育の本質です。 相手が理解できず、萎縮してしまったら、それは「教えた」ことになりません。 自分の知識をひけらかし、思い通りに動かない相手にイラつく。それは単なる自己満足の発散です。 なんなら、教えないほうがマシだった、という結果になりかねません。
家族だと、どうしても甘えが出ます。 「俺が高い金を出して買った車を傷つけられたくない」 「父親としての威厳を見せたい」 そんなエゴが混じるから、失敗するのです。
4. 最後に:究極の愛情テスト
それでも、「やっぱり俺が妻に教える」というあなたへ。 最後に一つだけ質問させてください。
もし、奥さんがあなたの車で練習に行き、ボディを派手にぶつけて帰ってきたら、あなたの第一声はなんですか?
「どこぶつけた!?」 「修理代いくらすると思ってるんだ! ふざけるな!」
もし、この言葉が喉まで出かかったなら、教える資格はありません。今すぐプロの講習を予約してください。
正解は、たった一つです。
「怪我がなくて良かったね」
車は直せますが、奥様の心や、家族の関係は直せません。 この言葉を心から言える覚悟がないのなら、助手席には乗らないであげてください。 それが、家庭の平和を守る一番の近道です。

