バイク乗りや車好きの間で、酒の肴として必ず盛り上がる「永遠のテーマ」があります。
「公道のカリスマ『白バイ隊員』と、運転を教えるプロ『教習指導員』。結局、どっちが運転上手いの?」
警察24時などの番組で見る神業のような白バイの走行と、教習所で見本を見せる指導員のスラローム。 同じ「二輪のプロ」ですが、その実態は似て非なるものです。
今回は、二輪教習の現場に立ち、プライベートでも多くのライダーと走ってきた現役指導員の私が、この禁断のテーマに**「独断と偏見」**で白黒つけたいと思います。 ネット上のスペック比較ではない、現場の人間だからこそ知る「裏事情」も含めてお話ししましょう。
1. 生態比較①:教習指導員のリアル「全員がバイク好きとは限らない」
まず、私たち教習指導員の生態について。 「二輪の指導員なんだから、みんな根っからのバイク好きでしょ?」と思われるかもしれませんが、実はそうとも限りません。
もちろん、元ジムカーナ選手やレース経験者など、バイクが好きすぎてこの仕事に就いた猛者もいます。 しかし、若手指導員の中には**「業務命令で、順番が回ってきたから仕方なく資格を取りに行った」**というケースも少なくありません。 「実はプライベートではバイクを持っていない」という指導員も、意外と存在するのです。
「パワハラ対策」で腕が落ちている?
また、これは業界の裏話ですが……最近の指導員は、昔に比べて「訓練量」が減っている傾向にあります。
一昔前までは、先輩指導員(鬼教官)による厳しいシゴキ、いわゆる「かわいがり」があり、血の滲むような特訓で技量を叩き込まれました。 しかし近年は、コンプライアンスや**「パワハラ騒ぎ」**を恐れ、指導もマイルドになっています。 その結果、新人指導員のライディングスキルは、正直なところ以前より少し低下しているようにも感じます。
しかも、私たちの訓練は基本的に**「業務時間外」**です。 日中は教習業務で手一杯。そのため、志のある指導員は、始業前の早朝(朝練)や昼休み、就業後の夜練で、眠い目をこすりながら自分の技量を磨いているのです。
2. 生態比較②:白バイ隊員のリアル「訓練こそが仕事」
対する白バイ隊員はどうでしょうか。 警察官の採用は、高卒・大卒・中途と様々ですが、**「入職前はバイク未経験」**という人が非常に多いのが特徴です。
警察組織としては、我流の変なクセがついている経験者よりも、真っ白なキャンバスのような未経験者の方が、警察流の操縦法を叩き込みやすいという事情もあるようです。 また、警察官になってからは、プライベートでバイクに乗るのにも許可が必要だったりと、ハードルが高い側面もあります。
24時間「訓練」できる強み
指導員との決定的な違いは、**「訓練そのものが業務(仕事)である」**という点です。 白バイ隊員として選抜されれば、勤務時間として日夜訓練に励むことができます。「教習の合間にこっそり練習」する私たちとは、環境が全く異なります。
ただし、一口に白バイと言っても色々です。
- 所轄の隊員: 地域の警察署に所属し、パトロールがメイン。
- 交通機動隊(交機): 取締りのスペシャリスト。
- 特練員: 「全国白バイ安全運転競技大会」で勝つために、サイボーグのように訓練だけを続ける精鋭。
この「特練員」レベルになると、もはや人間ではありません。指導員が束になっても敵わないでしょう。
3. 第1ラウンド:【技術対決】実は指導員の方が上?
では、全国大会に出るようなトップ層を除外して、一般的な「街の白バイ隊員」と「ベテラン指導員」を比べたらどうなるか。
完全に私の主観ですが、**「技術だけなら、若干指導員の方が上手い(かもしれない)」**と思っています。
実は過去に、ある白バイ隊員の方と一緒にツーリングがてら走ったことがあるのですが、正直に言うと「あれ? 意外と普通だな……」と感じてしまったことがあります(もちろん、その隊員の方だけかもしれませんが)。
「教える」からこそ上手くなる
なぜ指導員の技術が高いのか。それは私たちの仕事が**「全く乗れない素人に、理屈で教えること」**だからです。
「なぜ一本橋で落ちるのか?」 「どうすれば小回りができるのか?」
感覚ではなく、言葉で説明し、見本を見せなければなりません。 そのために、低速でのバランス走行や、細かな荷重移動の理論を徹底的に研究しています。 「低速バランス」や「安定走行」に関しては、指導員に一日の長があると言えるでしょう。
一方で白バイ隊員は、緊急走行のプロです。予測不能な公道で、一瞬で加速し、違反車を追尾する能力はずば抜けています。 「静の指導員、動の白バイ」といったところでしょうか。
4. 第2ラウンド:【意識対決】やはり警察は「法の番人」だった
技術ではいい勝負(あるいは指導員優勢)だとしても、「安全運転のプロ」としての総合力で比べたらどうでしょうか。
これはもう、完敗です。白バイ隊員の方が上手い(安全)です。
理由は単純。彼らが**「24時間365日、法の番人」**だからです。 私たち指導員ももちろん安全運転のプロですが、中にはプライベートな愛車を「法スレスレのカスタム」で楽しんだり、サーキット走行などの経験から、公道でも少しスポーティーな走りをしてしまう人がいないとは言えません(私は超優等生ライダーですが!)。
しかし、警察官は違います。 プライベートでの事故や違反も、彼らにとっては致命的です。 「生活のすべてが法の下にある」という覚悟と、染み付いた安全マインド。 リスクを予知し、絶対に事故を起こさないという立ち振る舞いにおいては、やはり彼らこそが真のスペシャリストです。
5. まとめ:比べること自体がナンセンス?
結論として、私の考えはこうです。
- 細かいバイク操作やバランス感覚は、指導員の方が上手いことが多い。
- 公道での安全確保や状況判断能力は、白バイ隊員の方が上手い。
結局のところ、**「どっちもめちゃくちゃ上手い」**のです。
- 教習指導員: 安全なドライバーを**「育成する(生み出す)」**プロ
- 白バイ隊員: 道路の安全を**「守る(取り締まる)」**プロ
役割が違うだけで、目指しているゴールは「交通事故のない社会」で同じです。 野球選手とサッカー選手、どっちが運動神経いい?と聞くようなもので、比べること自体が少しナンセンスかもしれませんね。
もし街中で白バイを見かけたら、「あ、取締のプロだ」と敬意を払い、教習所のバイクを見かけたら「あ、育成のプロが頑張ってるな」と温かい目で見ていただければ幸いです。
そして、どちらのお世話にもならないよう(違反や補習的な意味で)、皆さんも安全運転でいきましょう!


