前編では、自転車の違反にも関わらず、自動車の免許にも大きな影響を及ぼすことについてお伝えしてきました。
「自転車なら免許がないから大丈夫」という考え方が、今の法制度では通用しないことはご理解いただけたかと思います。 しかし、法律の条文だけでは、実際に自分の身に何が起こるのかイメージしづらいかもしれません。
後編となる今回は、実際に検挙された場合に生活がどう変わってしまうのか、具体的な事例や、2026年から始まる「青切符」制度がもたらす変化について、より深く解説していきます。
免許停止になった人たちの「その後」
昨年だけで約900人が、自転車の飲酒運転をきっかけに自動車免許の停止処分を受けています。 数字で見るだけなら他人事ですが、その一人ひとりには生活があり、仕事があります。ここでは、実際に想定されるケースをもとに、処分後のリアルな影響を見ていきましょう。
ケース1:営業職(30代男性)の場合
都内のメーカーで営業職として働くAさん。忘年会の帰り、終電を逃してしまい、近くにあったシェアサイクルを利用しました。「深夜だし、数キロだから」という軽い気持ちでした。
しかし、交差点での一時不停止をきっかけに警察官に呼び止められ、呼気検査へ。結果は0.25mgの酒気帯び運転。その場で赤切符が交付されました。 本当の試練は、数週間後に届いた公安委員会からの通知です。
「180日間の運転免許停止」
Aさんの業務は、社用車でのルート営業がメインです。半年間も運転ができなければ、仕事になりません。 上司に報告した際の、あの重苦しい空気。「自転車で免停? 何をやってるんだ……」と呆れられ、結果として営業職を外れることになりました。 営業手当はなくなり、給与はダウン。なにより社内での信用を一瞬で失ってしまいました。「タクシー代をケチった代償にしては、あまりに大きすぎた」とAさんは悔やんでいます。
ケース2:公務員(地方自治体職員)の場合
さらに状況が深刻なのは、公務員や、コンプライアンスに厳しい大企業に勤めている場合です。
例えば千葉県など一部の自治体では、飲酒運転に対する処分基準が非常に厳格化されています。過去の報道や規定を見ると、「酒気帯び運転」をした場合、それが自転車であっても**「原則として懲戒免職(クビ)」**とする方針を打ち出しているケースがあります。
「自転車だから許されるだろう」という甘えは、退職金も、社会的地位も、安定した生活も、すべてを失うリスクと背中合わせです。 これは決して脅しではなく、現在の社会が「飲酒運転」に対して向けている目は、それほどまでに厳しいのです。
なぜ自転車の飲酒運転は「危険」なのか
少し視点を変えて、乗り物の特性からリスクを考えてみましょう。 「自分は運動神経が良いから大丈夫」「ゆっくり走れば平気」と思っている方ほど、自転車特有の危うさを見落としがちです。
「バランス」が崩れる怖さ
自転車は、二輪という構造上、自立できない乗り物です。人間が無意識にバランスを取り続けることで、初めて走ることができます。 しかし、アルコールが入ると、平衡感覚を司る三半規管の機能が低下し、脳の情報処理速度も遅れます。
シラフの時なら無意識に修正できるわずかなふらつきが、飲酒時には修正できません。 特に危険なのが、漕ぎ出しや低速時です。車道側に大きくふらついてしまい、後ろから来た車と接触する事故が後を絶ちません。
「受け身」が取れない
また、転倒した際のリスクも跳ね上がります。 通常なら手をついて頭を守ることができますが、酔っていると反応が遅れ、顔面や頭部を地面に直接打ち付けてしまうケースが多く見られます。 自転車の単独事故による死亡原因の多くが「頭部損傷」であることからも、その危険性がわかります。車のようなボディに守られていない自転車での事故は、ダイレクトに命に関わるのです。
2026年「青切符」導入で検挙が増える理由
さて、これから先の未来の話もしておかなくてはなりません。 2026年4月に、自転車の交通違反に対して反則金を科す**「青切符」制度**が導入されます。
「青切符は信号無視などの軽微な違反の話でしょ? 飲酒運転(赤切符)とは関係ないのでは?」 そう思われるかもしれませんが、実は密接に関係しています。青切符の導入は、飲酒運転の発覚リスクを劇的に高めることになるからです。
「止めるきっかけ」が増える
これまでの警察官は、自転車の軽微な違反を見つけても、手続きの手間などを考慮して口頭注意(指導)で済ませることが多くありました。 しかし、青切符制度が始まれば、信号無視や一時不停止などの違反に対して、現場で淡々と切符処理が行われるようになります。
つまり、警察官が自転車を呼び止める頻度が圧倒的に増えるのです。 警察官と対面で話す機会が増えれば、当然こうなります。
「ん? お酒のにおいがしますね」
些細な違反で止められたはずが、その場で飲酒が発覚し、青切符どころか「赤切符(飲酒運転)」に切り替わる――。 こうしたケースが急増することが予想されます。 「裏道ならバレない」「近所だから大丈夫」という考えは、今まで以上に通用しなくなると覚悟しておいた方がよいでしょう。
【2026年開始】自転車の青切符制度とは?対象年齢16歳以上・反則金の仕組みと赤切符との違いを徹底解説
忘れてはいけない「講習」の負担
飲酒運転で検挙されると、罰金や免停だけでなく、**「自転車運転者講習」**というペナルティも待っています。
これは、3年以内に2回以上、危険行為(飲酒運転や信号無視など)で検挙された人に受講が命じられるものです。
- 受講時間: 3時間
- 受講手数料: 6,000円
- 場所: 免許センターなど指定の場所
平日の昼間に時間を空け、指定された場所まで行き、3時間の講習を受けなければなりません。もし命令に従わなければ、5万円以下の罰金が科されます。
これまでは「2回検挙」されるケースは稀でしたが、青切符導入後はハードルが下がります。「1回目は飲酒で検挙、2回目は信号無視で検挙」となれば、講習のお呼び出しがかかります。 時間的にも金銭的にも、そして精神的にも大きな負担となることは間違いありません。
まとめ:これからの時代の「常識」
ここまで、自転車の飲酒運転に伴うリスクについて、様々な角度から解説してきました。
法律の改正、取り締まりの強化、そして社会の厳しい目。 これらを踏まえると、私たちの取るべき行動は一つしかありません。
「お酒を飲んだら、自転車には乗らない」
これに尽きます。 どうしても自転車で店まで行ってしまったのなら、帰りは**「押して帰る」**のが正解です。 日本の道路交通法では、自転車を押して歩いている間は「歩行者」として扱われます。これなら飲酒運転にはなりません(ただし、他人に迷惑をかけるような泥酔状態であれば保護される可能性はあります)。
あるいは、駐輪場に置いてタクシーや公共交通機関で帰る。 翌日自転車を取りに行く手間や、数千円のタクシー代は、免許停止や職を失うリスクに比べれば、本当に微々たるものです。
もし、あなたが企業の管理職や総務担当の方であれば、ぜひ社内の規定も見直してみてください。マイカー通勤だけでなく、自転車通勤者のアルコールチェックや教育も、これからの時代には必須のリスク管理となってくるはずです。
「自転車くらい大丈夫」という感覚は、もう過去のものです。 正しい知識を持って、ご自身と大切な人の生活を守ってください。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


