「自転車の違反で罰金が取られるようになるらしい」 ニュースなどで、こんな話題を耳にしたことはありませんか?
これまでは、自転車の交通違反といえば警察官に呼び止められても「注意(指導警告)」で終わることが多く、「どうせ捕まらないだろう」という意識がどこかにあったかもしれません。
しかし、その常識は間もなく覆されます。 **2026年5月まで(報道等では2026年4月頃)に、自転車にも自動車と同じ「交通反則通告制度(通称:青切符)」**が導入されることが決定しました。
これにより、16歳以上の運転者が自転車で違反をした場合、反則金の納付が求められるようになります。 本記事では、警察庁の公表資料に基づき、新制度の仕組み、対象者、そして**「これまでの赤切符と何が違うのか(なぜ取締りが厳しくなるのか)」**について、徹底解説します。
1. なぜ今、自転車に「青切符」なのか?導入の背景と狙い
そもそも、なぜ長年導入されてこなかった自転車への青切符が、今になって導入されることになったのでしょうか。その背景には、自転車事故の増加と、これまでの取締り制度の限界がありました。
① 自転車事故の割合が増加している
交通事故の総件数は年々減少傾向にあります。しかし、その中で**「自転車関連事故」の件数は横ばいで推移しており、全事故に占める自転車事故の割合はむしろ増加傾向にあります。 特に、自転車と歩行者の事故や、自転車単独の事故が増えており、死亡・重傷事故の約4分の3(約7割強)**において、自転車側に何らかの法令違反があることが分かっています。
② 「赤切符」だけでは限界だった(取締りの実情)
これまで、自転車の交通違反に対する法的措置は、刑事罰である**「赤切符」**しかありませんでした。 しかし、赤切符での処理は非常に重い手続きが必要です。
- 警察の負担: 違反者一人を処理するために膨大な書類作成と捜査が必要。
- 処分の実態: 実際に検挙して検察に送っても、軽微な違反であれば「起訴猶予(事実上のお咎めなし)」となるケースがほとんど。
このため、現場の警察官はよほど悪質な場合を除き、「指導警告(注意)」に留めざるを得ないという実情がありました。これが、一部の利用者に「自転車は違反しても大丈夫」という**「逃げ得」**の意識を植え付ける原因となっていたのです。
③ 青切符導入で「検挙しやすく」なる
今回導入される「青切符(交通反則通告制度)」は、この問題を解決するためのものです。 自動車の違反処理と同じく、**「反則金を払えば刑事責任を問わない(前科がつかない)」**という行政処分の仕組みを自転車にも適用します。
これにより、警察官は現場で簡易的に切符を切ることができるようになります。 言い換えれば、**「警察官にとって、違反者を圧倒的に検挙しやすくなる」**ということです。今まで「注意」で済んでいた信号無視や一時不停止が、これからは確実に「青切符(反則金)」の対象になると考えてください。
2. 青切符制度の仕組み:対象年齢と反則金
では、具体的にどのような人が対象になり、どのような流れで処理されるのでしょうか。
対象年齢は「16歳以上」
今回の青切符制度の対象となるのは、16歳以上の自転車運転者です。
- 運転免許の有無は無関係: 免許を持っていない高校生や学生、高齢者も、16歳以上であれば対象になります。
- 16歳未満の場合: 基本的にはこれまで通り「指導警告」が中心となりますが、悪質な場合は保護者に対して指導が行われたり、「自転車安全指導カード」が交付されたりします。
反則金(青切符)の仕組み
16歳以上の者が、信号無視などの「反則行為」をして検挙された場合、以下の流れになります。
- 現場: 警察官から**「青切符(交通反則告知書)」と「納付書」**を渡されます。
- 納付: 原則として7日以内に、銀行や郵便局で反則金を納付します(仮納付)。
- 完了: 納付すれば手続きは終了です。警察署への出頭や裁判は不要で、前科もつきません。
【反則金の目安】 具体的な金額は今後政令で定められますが、**原付バイクの反則金(5,000円〜12,000円程度)**を基準に検討されています。
- 信号無視:6,000円程度
- 一時不停止:5,000円程度
- 右側通行(通行区分違反):6,000円程度
- 携帯電話使用(保持):12,000円程度 (※金額は原付の例に基づく想定です)
3. 「赤切符」と「青切符」の決定的な違い
ここが今回最も重要なポイントです。これまで運用されてきた「赤切符」と、新しく導入される「青切符」は、その重みが全く異なります。
[画像挿入:導入前後の手続き比較図(資料p.9, 10を参考にした図解)]
🔴 赤切符(告知票):刑事罰

赤切符は、**「あなたは犯罪の容疑者です」**という告知です。
- 対象: 酒酔い運転、酒気帯び運転、妨害運転(あおり運転)などの重大な違反、または青切符の反則金を納めなかった場合。
- 手続き: 警察署へ出頭し、取調べを受けます。その後、検察庁へ書類送検(または身柄送検)され、検察官が起訴するかどうかを判断します。
- 結果: 起訴されて有罪になれば、**「罰金刑」や「懲役刑」が科され、いわゆる「前科」**がつきます。
🔵 青切符(反則告知書):行政処分

青切符は、**「お金を払えば刑事手続きを免除しますよ」**という特例制度です。
- 対象: 信号無視、一時不停止、右側通行、スマホながら運転(保持)など、約112種類の定型的な違反。
- 手続き: 現場で切符を受け取り、反則金を納付するだけ。
- 結果: 納付すれば刑事事件にはならず、前科はつきません。
まとめ:逃げ得は許されない時代へ
これまでは「赤切符=手続きが大変=警察も及び腰=実質お咎めなし」というケースが多々ありました。 しかし、青切符の導入により、**「手続きが簡単=警察も積極的に検挙=違反者はお金を払う」**という図式に変わります。
「ちょっとくらいならバレないだろう」「今まで大丈夫だったから」という甘い考えは、2026年からは通用しなくなると肝に銘じましょう。
4. 青切符と赤切符の境界線:スマホ・お酒はどうなる?
すべての違反が青切符になるわけではありません。悪質・危険な違反は、新制度導入後も引き続き**「赤切符(刑事罰)」**の対象です。
青切符(反則金)の対象となる主な違反
日常的に起こりやすい違反の多くがここに含まれます。
- 信号無視: 赤信号を無視して交差点に進入する。
- 指定場所一時不停止: 「止まれ」の標識で止まらない。
- 通行区分違反: 右側通行(逆走)をする。車道の右側を走る。
- 携帯電話使用等(保持): スマホを手に持って通話したり、画面を注視したりする(事故を起こしていない場合)。
- 遮断踏切立ち入り: 警報機が鳴っている踏切に入る。
- ブレーキ不良: ブレーキが効かない自転車を運転する。
- 傘さし運転・イヤホン運転: 都道府県の公安委員会規則で禁止されている場合(多くの地域で禁止)。
赤切符(刑事罰)の対象となる重大な違反
これらは「お金を払えば終わり」ではありません。警察による捜査と刑事処分の対象です。
- 酒酔い運転・酒気帯び運転: お酒を飲んで自転車に乗る行為。
- 携帯電話使用等(交通の危険): スマホ操作によって事故を起こしたり、交通の危険を生じさせたりした場合。
- 妨害運転(あおり運転): 急な割り込みや幅寄せなど。
特に**2024年11月から厳罰化された「酒気帯び運転」と「ながらスマホ(危険を生じさせた場合)」**は、青切符の導入を待たずに、すでに赤切符による厳しい取締りが始まっています。これらは青切符で許してもらえるレベルの違反ではないことを理解しておきましょう。
まとめ:自転車も「車両」としての責任を
2026年から始まる自転車の青切符制度は、自転車を単なる「気軽な乗り物」から、**「責任を伴う車両」**へと位置づけ直す大きな転換点です。
- 対象は16歳以上。免許の有無は関係ありません。
- 反則金の支払いが求められ、支払えば前科はつきません。
- 一方で、警察官にとっては取締りがしやすくなるため、これまで見逃されていた違反も厳しく検挙されるようになります。
「知らなかった」では済まされない時代がすぐそこまで来ています。 次回の記事では、**「導入前と導入後で、具体的に現場の手続きはどう変わるのか?」**について、さらに詳しくシミュレーションしていきます。


