「そろそろ免許更新のハガキが来る頃だけれど、認知機能検査が憂鬱で仕方がない……」 「もし検査に落ちて、認知症だと言われたらどうしよう」
75歳以上で運転免許を更新されるご本人様、あるいはそのご家族様の中に、このような不安を抱えている方はいらっしゃいませんか? これまで何十年も無事故無違反でハンドルを握ってきたベテランドライバーであっても、「検査」「テスト」という言葉には身構えてしまうものです。ましてや、それが自分の記憶力や判断力を試されるものであれば、なおさら緊張してしまうのは当然のことです。
しかし、どうか安心してください。 結論から申し上げますと、認知機能検査は、決して「落とすための試験」ではありません。 事前にどのような問題が出るのかを知り、正しい対策を練っておけば、過度に恐れる必要は全くないのです。
この記事では、75歳以上の免許更新における最大の関門「認知機能検査」について、その全貌から具体的な問題の中身、そして合否を分ける最大のポイントである「イラスト問題」の覚え方まで、徹底的に解説します。 これを読めば、「なーんだ、こういうことだったのか」と肩の力が抜け、自信を持って検査当日を迎えられるはずです。
1. 導入:そもそも認知機能検査とは?
まずは、敵を知ることから始めましょう。認知機能検査とは、一体どのような位置付けの検査なのでしょうか。
75歳以上のドライバーに義務付けられた「安全の確認」
認知機能検査は、免許証の有効期間満了日における年齢が75歳以上になる方が、免許更新の際に必ず受けなければならない検査です。 これは、加齢に伴う記憶力や判断力の低下が、運転にどのような影響を与えているかを客観的に確認するためのものです。
「点数が悪いと免許が更新できないのでは?」と心配される方が多いですが、現在の制度(令和4年改正以降)では、点数による合否判定はありません。 結果はシンプルに以下の2つだけです。
- 認知症のおそれがない
- 認知症のおそれがある
「おそれがない」と判定されれば、そのまま高齢者講習へと進み、免許更新が可能です。 一方で、「おそれがある」と判定された場合でも、即座に免許が失効するわけではありません。医師の診断を受け、そこで「認知症ではない」と診断されれば、免許を更新することができます。 ただし、医師の診断の結果、法的に「認知症」であると認定された場合に限り、運転免許の取消しや停止の処分が行われます。
つまり、この検査は**「今の自分の脳の状態を知り、安全に運転を続けるための健康診断」**のようなものだと捉えてください。
検査当日の心構え
検査会場は、運転免許センターや教習所です。当日は周りも同年代の方ばかりですので、変に緊張する必要はありません。 しかし、検査のメインとなるのは「記憶力」のテストです。寝不足や体調不良は結果に直結します。前日はしっかりと睡眠をとり、万全の体調で臨むことが、何よりの対策となります。
2. 検査の全体像と最大の山場「16枚のイラスト」
では、具体的な検査の中身に入っていきましょう。 認知機能検査は、大きく分けて以下の3つのパートで構成されています。
- 手がかり再生(イラストの記憶と回答)
- 介入問題(数字への斜線引き)
- 時間の見当識(日時の回答)
この中で、結果を左右する最重要パートが、最初に行われる「手がかり再生」のためのイラスト記憶です。
検査はいきなりクライマックスから始まる
検査が始まると、モニターやスクリーンに、動物や道具、乗り物などのイラストが次々と表示されます。 1回に4枚ずつ、合計4回。つまり、4×4=16枚のイラストを覚えなければなりません。
「16個も覚えるなんて無理だ!」と思われるかもしれません。 しかも、この記憶作業は検査の冒頭、まだ場の空気に慣れておらず、頭が温まっていない状態で行われます。ここでパニックになってしまうと、その後の検査全体に影響してしまいます。 だからこそ、**事前の準備(予習)**がモノを言います。
4種類のパターンを「ストーリー」で攻略する
実は、この検査で出題されるイラストは、A・B・C・Dの4つのパターンがあらかじめ決まっています。当日、どのパターンが出題されるかはわかりませんが、この4種類以外が出ることはありません。 つまり、事前にこの4パターンのイラストを見ておけば、「あ、これは見たことがある!」と落ち着いて対応できるのです。
しかし、16個の単語をただ丸暗記するのは、若者でも困難です。 そこで推奨したいのが、「ストーリー仕立て」で覚える方法です。イラストの単語を繋ぎ合わせて、一つの短い物語を作ってしまうのです。
当サイトでは、それぞれのパターンごとに、覚えやすいストーリーとイラストの解説記事を用意しています。検査前にぜひ一度目を通し、物語として頭に入れておいてください。これだけで、合格率がグンと上がります。
👇 パターン別の覚え方(ストーリー解説)はこちら 👇
- パターンA(大砲やオルガンなど): 👉 https://online-ds.jp/2025/07/10/patterna/
- パターンB(戦車や太鼓など): 👉 https://online-ds.jp/2025/07/11/patternb/
- パターンC(機関銃や琴など): 👉 https://online-ds.jp/2025/07/11/patternc/
- パターンD(刀やアコーディオンなど): 👉 https://online-ds.jp/2025/07/12/patternd/
この4つの記事をブックマークして、検査当日まで繰り返し読んでみてください。「物語」として覚えると、不思議と頭に残るものです。
3. 検査1(介入問題):ここは「休憩時間」と心得る
イラストを覚え終わった直後、「さあ、今のイラストを書き出してください」とはなりません。 ここで登場するのが、**「介入問題」**と呼ばれる検査です。
意地悪な「邪魔」が入る
この検査の内容は非常に単純です。 「たくさんの数字が並んでいる表の中から、指定された数字(例えば1と4)に斜線を引いてください」 というものです。これを2回戦行い、合計5つの数字に斜線を引いていきます。
「素早く正確にやらなきゃ!」と焦ってしまいがちですが、ここで重要な秘密をお教えします。 実はこの検査、点数には一切影響しません。
この検査の本当の目的は、採点することではなく、**「先ほど覚えたイラストの記憶を邪魔すること(忘れさせること)」**なのです。 一生懸命に数字を探して斜線を引いている間に、脳のメモリが上書きされ、さっき覚えた「ライオン」や「フライパン」が頭から消えていく……それを狙った問題なのです。
「適当に流す」が合格への近道
ですから、この介入問題に対して本気になってはいけません。 ここで脳のエネルギーを使い果たし、イラストを忘れてしまっては本末転倒です。 コツは、「適当に流す」こと。 「はいはい、線を引けばいいのね」くらいの軽い気持ちで、ゆっくりと作業をしてください。そして、頭の片隅では、先ほどのイラストのストーリーを反芻(はんすう)し続けるのです。 「採点されない問題」に全力を出す必要はありません。ここは、次の回答タイムに向けた脳の休憩時間だと割り切りましょう。
👇 介入問題の詳しい解説と心構えはこちら 👇 👉 https://online-ds.jp/2025/07/12/numbers/
4. 問題2(自由回答):ここが合否の分かれ道
介入問題が終わると、いよいよ本番です。 「先ほど覚えた16枚のイラストを、ヒントなしで全て書き出してください」という問題が出されます。これを**「自由回答」**と呼びます。
漢字がわからなければ「ひらがな」でOK
回答用紙には、思い出した順にどんどん書いていきます。 「あれ?『薔薇(バラ)』ってどう書くんだっけ?」と漢字を思い出そうとして時間をロスするのは勿体無いです。 この検査は漢字テストではありません。ひらがなでもカタカナでも、正解は正解です。わからなければ迷わずひらがなで書きましょう。
ここで、先ほど覚えた**「ストーリー」**が役に立ちます。 ストーリーを頭の中で再生し、出てきたアイテムを次々と書き出していくのです。16個すべてを埋めるつもりで挑戦してください。
8個思い出せれば「合格」が見える
「16個全部なんて無理……」と不安になる必要はありません。 統計的に見て、ここで8個以上思い出すことができれば、「認知症のおそれなし」という判定が出る可能性が極めて高くなります。半分正解すれば、ほぼ合格確定なのです。
また、近年導入が進んでいるタブレット方式の検査の場合、この段階で合格基準点に達すると、**検査がそこで打ち切られる(終了する)**ことがあります。 「あれ?まだ全部書いてないのに終わっちゃった!」と驚くかもしれませんが、それは不合格になったのではなく、「あなたはもう十分合格レベルですよ」という意味ですので、安心してください。
5. 問題3(手がかり再生):思い出せなかった人のための救済措置
自由回答で頭が真っ白になり、全然書けなかったとしても、まだ諦めないでください。 すぐに次のチャンス、**「手がかり再生」**がやってきます。
ヒントがあれば思い出せる!
この問題では、回答用紙に「ヒント」が書かれています。 例えば、「戦いの武器」「楽器」「体の一部」「電気製品」といった具合です。
「さっきのイラストの中に、楽器があったはずです。それは何ですか?」と聞かれれば、「あ! オルガンだ!」と思い出せるはずです。 この検査は、問題2(自由回答)で書けなかった部分をカバーするための強力な救済措置です。
もう一度、全部書くつもりで
注意点として、問題2で書けた答えも、ここでもう一度書く必要があります。 「さっき書いたからいいや」と空欄にしてはいけません。 問題2で回答できなかった答えを、ヒントを頼りにいかに拾い上げるか(カバーするか)が、このパートの鍵です。 ヒントを見ながら、ストーリーをもう一度たぐり寄せ、空欄を埋めていきましょう。ここで粘り強く回答できれば、十分に挽回が可能です。
6. 問題4(時間の見当識):最後のボーナス問題
タブレット検査で成績優秀な方はスキップされることもありますが、紙の検査や、点数がギリギリの場合に行われるのが、最後の**「時間の見当識」**です。
現在の日時を答えるだけ
問題の内容はいたってシンプルです。 「今年は、何年ですか?」「今は、何月ですか?」「今日は、何日ですか?」「今日は、何曜日ですか?」「今は、何時何分ですか?」 この5つの質問に答えます。
30分のズレは許容範囲
特に「時間」に関しては、検査中に時計を見ることはできませんが、プラスマイナス30分のズレまでは正解とされます。
例えば、現在時刻が 2026年10月10日(土)10時30分 だとします。
- ①年は?:2026年(または令和8年)
- ②月は?:10月
- ③日は?:10日
- ④曜日は?:土曜日
- ⑤時間は?:10時30分
- 10時01分 〜 10時59分 の範囲で回答すれば**「正解(⭕️)」**になります。
- 「10時」「11時」といった「分」を書かない回答や、30分以上ズレた回答は不正解になります。
この問題は、認知機能を測る上での基本中の基本ですが、実は配点が高いのです。 イラスト問題で失敗してしまった方でも、この「時間の見当識」を全問正解することで点数が底上げされ、救済されるケースが多くあります。 検査会場に入る前に、必ず時計やスマホで正確な日時を確認しておきましょう。
👇 時間の見当識の詳しい採点基準はこちら 👇 👉 https://online-ds.jp/2025/07/12/timeorientation/
7. 検査結果とその後:「おそれあり」でも終わりではない
すべての検査が終わると、その場で、あるいは後日、結果が通知されます。 令和4年以前の検査とは異なり、現在の結果通知書には具体的な「点数」は記載されません。 タブレット検査での途中終了(打ち切り)との整合性を保つため、結果は以下の2パターンのみで表記されます。
- 認知症のおそれがない
- 認知症のおそれがある
「認知症のおそれがない」だった方
おめでとうございます。第1関門突破です。 そのまま、自動車教習所などで高齢者講習の予約を取りましょう(教習所によっては、検査直後にそのまま講習を受けられる場合もあります)。
なお、その後の講習内容は、過去3年間の違反歴や、所有している免許の種類によって異なります。
- 過去3年以内に一定の違反があった方: まず**「運転技能検査(実車試験)」**に合格する必要があります。 👉 https://online-ds.jp/2025/07/08/2025driving-skills-test-english-translation/
- 違反がなかった方(通常の高齢者講習):2時間講習(実車指導+視力検査+講義)を受けます。
- 👇実車指導の詳しい内容はこちら👇 https://online-ds.jp/2025/07/16/actualvehicleinstruction/
- 👇視力検査の詳しい解説はこちら👇 https://online-ds.jp/2025/07/08/senioreyesight/
結果が「認知症のおそれあり」だった方
この通知を受け取ると、目の前が真っ暗になったような気持ちになるかもしれません。 しかし、ここで免許更新の道が閉ざされたわけではありません。 「おそれあり」という結果は、あくまで「医師による確認が必要です」という合図に過ぎません。 この場合、以下の3つの選択肢から、ご自身に合った道を選ぶことになります。
1. 再検査の予約をする
認知機能検査は、何度でも受検可能です。 「当日は体調が悪かった」「緊張して頭が真っ白になった」という心当たりがあるなら、もう一度予約を取り直してチャレンジしましょう。対策をして臨めば、次は「おそれなし」の結果が出る可能性は十分にあります。免許の有効期限内であれば、納得いくまで挑戦できます。
2. 医師の診断を受ける(診断書を提出する)
これが最も確実な方法です。専門医を受診し、「認知機能検査では引っかかりましたが、認知症ではありません」という診断書をもらえば、免許の更新が可能です。 実際、検査では「おそれあり」となっても、医師の診断では「加齢による物忘れの範囲内」とされ、運転を継続されている方は大勢いらっしゃいます。
3. 免許を自主返納する
もし、ご自身でも記憶力や運転に不安を感じており、医師の診断でも「認知症」と判定される可能性が高いと感じるならば、自主返納も立派な選択肢です。 医師の診断で「認知症」と確定してしまうと、免許は「取消し」処分となります。取消しになると、手元には何も残りません。 しかし、その前に自主返納を行えば、身分証明書として使える**「運転経歴証明書」を受け取ることができます。これを持っていると、自治体や企業から、バス・タクシーの割引や商品の割引など、様々な高齢者支援サービス(特典)**を受けることができます。 「取り消されるよりは、特典をもらって卒業する」という考え方も、賢い選択と言えるでしょう。
まとめ:準備があれば「認知機能検査」は怖くない
認知機能検査は、高齢ドライバーを排除するためのものではなく、**これからも安全に運転を続けるための「通過点」**です。
「難しい」「怖い」と感じるのは、中身がわからないからです。 今回ご紹介したように、
- イラストをストーリーで覚える(予習)
- 介入問題は適当に流す(脳の休憩)
- 日時を直前に確認する
この3点を守れば、合格は決して難しいものではありません。 ご家族の方も、ぜひ一緒にイラストのストーリーを楽しんで、リラックスした状態で検査に送り出してあげてください。
あなたのカーライフが、これからも安全で安心なものであることを、心より応援しています。


