車で生活道路を走っているとき、こんなシーンによく遭遇しませんか? 「前の自転車、ちょっと遅いなあ……よし、対向車もいないし、今だ!」とアクセルを踏んで横をスッと抜かしていく場面。
日常的に何気なく行われているこの追い越しですが、2026年4月からは違反として厳しい罰則(拘禁刑や罰金)を受ける可能性があります。 今回は、インターネットのニュース記事ではあまり語られない「新ルールの物理的な矛盾」と「現場のリアルな懸念点」について、プロの視点から深掘りして解説します。
1. その追い越し、2026年から「違反」になるかも
2026年4月に施行される道路交通法の改正により、自動車が自転車を追い越す際のルールが厳格化されます。 これまでも「安全な間隔を保つ」というふんわりとした決まりはありましたが、今回の改正ではさらに踏み込み、違反すれば刑事罰(拘禁刑や罰金)の対象となる厳しい措置が取られます。
新ルールの絶対的なポイントは以下の2つです。
- 十分な側方間隔(約1.5mの目安)をあけること
- 側方間隔が取れない場合は、状況に応じて安全な速度まで減速すること
一見すると「そりゃそうだよね」と思える安全ルールですが、これを実際の日本の道路事情に当てはめると、とんでもない「無理ゲー」が発生します。
2. 検証:側方1.5mルールの物理的な限界
新ルールで目安とされている「1.5mの側方間隔」。これを実際の道路幅で計算してみましょう。
- 自転車の走行位置: 道路の左端を通行する義務があるため、左端から約1mの幅を使って走っていると仮定します。
- 必要な側方間隔: 今回のルールの目安である1.5m。
- 車の車幅: 一般的な乗用車で約1.7m。
これをすべて足し合わせるとどうなるでしょうか。 1.0m + 1.5m + 1.7m = 約4.2m
つまり、自転車をルール通りに追い越すためには、道路の左側部分だけで約4.2mの幅を使用することになります。 日本の生活道路は、道幅が5m程度の場所がざらにあります。そのような道路で4.2mも幅を使おうとすれば、完全に対向車線へはみ出すか、物理的に不可能かのどちらかです。
結論として、道幅の狭い生活道路では「実質的に自転車の追い越しは不可能」となり、対向車が途切れるか広い道に出るまで、ずっと自転車の後ろを徐行してついていくしか選択肢がなくなります。
3. 指導員のツッコミ:「徐行」で自転車を追い越せるのか?
「じゃあ、1.5mの間隔が取れない狭い道なら、速度を落として追い越せばいいんでしょ?」と思うかもしれません。しかし、ここに最大の矛盾が潜んでいます。
仮に、この「速度を落とす」を法律用語の**「徐行」**だと解釈してみましょう。 徐行とは、「車が直ちに停止できる速度で進行すること」であり、一般的には時速10km以下、ブレーキをかけて1m以内に停止できる速度とされています。
ここで想像してみてください。 時速10km〜15kmくらいで走っている自転車を、時速10km以下の「徐行」で追い越すことは物理的に可能でしょうか? はっきり言って不可能です。一生追いつけませんし、抜かせません。
警察庁の発表では「自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行」という曖昧な表現にとどまっています。 現場の人間として一番の懸念材料は、この「具体的でない」という点です。基準が曖昧なゆえに、取り締まる警察官の匙加減一つで「今の速度は危険だったからアウト」と判断されかねない恐れがあるのです。
4. 自転車側の義務と、2026年の法改正ラッシュ
車ばかりが厳しくなるように感じますが、実は今回の改正では自転車側にも厳しい協力義務が課せられます。 車に追い越される際、自転車は「できる限り道路の左側端に寄り、加速してはならない」という義務が生じます。自転車側がフラフラと道の真ん中を走っていたり、わざとスピードを上げたりすれば、自転車側も指導の対象になります。
さらに、2026年は交通ルールの大改革の年です。
- 自転車の「青切符(反則金制度)」の導入
- 9月施行:生活道路(標識のない場所)の法定速度が、道路幅によって時速30キロに制限される
これらが立て続けに施行される見込みです。 国が本気で「車と自転車が混在する生活道路での死亡事故を減らしにきている」ことがよく分かります。
5. まとめ:イライラせず、ルールを守るゆとりを
厳しい罰則や曖昧な基準にモヤモヤする気持ちは痛いほど分かります。 しかし現実問題として、生活道路での車と自転車の接触事故が多発している以上、ドライバーにさらなる注意義務が課せられるのは致し方ない流れです。
2026年からは、**「抜かせない時は抜かさない」「自転車の後ろをゆっくりついていく」**という、これまで以上の心のゆとりが求められます。焦って数秒早く着くことと、違反切符を切られたり重大事故を起こしたりするリスクを天秤にかければ、答えは明らかですよね。
今後も、皆様の免許と安全を守るため、より具体的な交通ルールの深掘りや対策をお伝えしていきたいと思います。


