年度末である3月が近づくと、街の風景が一変します。 あちらこちらで始まる「道路工事」。そして発生する「渋滞」。
この時期、車を運転していて、片側交互通行の赤信号で止められた時、皆さんは何を思いますか? おそらく、多くの大人がこう吐き捨てるのではないでしょうか。
「またかよ。どうせ予算消化のために、無理やり穴掘ってるんだろ?」 「年末までサボってないで、もっと分散させろよ!」
その気持ち、痛いほど分かります。 かつては私も、そう思っていました。 ……ある冬、工事現場の「内側」に立つまでは。
今日は、教習指導員になる前、18歳の私が気づいた「道路工事が増えるもう一つの理由」についてお話しします。 これを知れば、もしかしたら明日の渋滞が、少しだけ違って見えるかもしれません。
18歳の冬、空き缶を投げつけられて考えたこと
私が高校3年生の冬のことです。 大学進学が決まり、自動車免許の費用を稼ぐために始めたアルバイトが、**「道路工事の交通誘導員」**でした。
時期はまさに今頃、年末から年度末にかけて。 業界は「かき入れ時」で、毎日毎日、現場が途切れることはありませんでした。
誘導員の仕事は、基本的には誘導棒を振って車を案内することです。 しかし、急いでいるドライバーにとって、私たちは「邪魔者」でしかありません。 通行止めの看板を持って立っているだけで、罵声を浴びせられることは日常茶飯事。ひどい時には、窓から空き缶やゴミを投げつけられたこともありました。
寒空の下、かじかむ手で誘導灯を振りながら、18歳の私はずっと疑問を感じていました。
「なんで大人は、毎年この時期に集中して工事をするんだ?」 「夏休みの宿題を最終日にやる小学生と一緒じゃないか。大人はバカなのか?」
休憩時間、缶コーヒーを飲みながら、現場の大人たちに何度も聞きました。「なんで今なんですか?」と。 返ってくる答えは、判で押したように同じでした。
「お役所の予算消化だよ」
その言葉を聞くたびに、私は腑に落ちない思いを抱えていました。 (予算のためだけに、こんなにみんなをイライラさせて、俺たちも寒い思いをして……そんな非効率なこと、本当にあるのか?) (春から秋まで、大人が全員サボっているなんてありえないはずだ)
現場に響く「訛り」が教えてくれた答え
そんなモヤモヤを抱えながら働いていたある日、私は現場で「ある共通点」に気づきました。
一緒に働いている作業員のおじさんたち。 休憩中に交わされる言葉を聞いていると、「東北訛り」の人が圧倒的に多かったのです。
「あれ? なんでこの現場、東北の人ばかりなんだろう?」
その時、私の中で点と点が繋がりました。 地理の授業で習った、日本の気候。 東北、北海道、北陸などの雪国では、冬場は積雪で道路工事ができない。
では、その地域の建設業の人たちは、冬の間どうやって食べていくのか? 答えはシンプルです。 「雪の降らない地域へ、出稼ぎに来る」
つまり、こういうことではないでしょうか。 私たちが住む地域で冬場に工事が増えるのは、単なる「お役所仕事の予算消化」だけではない。 **「雪国の人たちが働けるこの時期(冬)に、あえて工事の発注を合わせている」**という、社会的なサイクルがあるのではないか。
予算が余ったから慌てて使っているのではない。 「働く人が増える(出稼ぎの職人さんが来てくれる)から、工事ができる」 そして、その人たちのために、この時期の仕事が確保されている側面があるのではないか。
そう気づいた瞬間、私の目の前の景色が変わりました。 「予算消化のための無駄な穴掘り」に見えていた光景が、**「家族を養うために、遠い故郷を離れて働く人たちの生活の場」**に見えたのです。
ハンドルを握る手にも、少しの優しさを
もちろん、行政の仕組みとして「年度末の予算消化」という側面は間違いなくあるでしょう。 しかし、それだけが全ての理由ではありません。
あの時、私の横でスコップを握っていたおじさんも、きっと故郷に家族を残して、必死に働いていたはずです。 みんな、生きていくために一生懸命なんです。
今、私は教習指導員として、皆さんに「安全運転」を教える立場にあります。 運転において一番の敵は「イライラ」です。 「なんで工事なんかしてんだ!」とイライラすれば、アクセルは乱暴になり、事故のリスクは高まります。
もし明日、あなたが工事渋滞にハマったら。 「どうせ予算消化だろ」と舌打ちする代わりに、こう想像してみてください。
「ああ、遠くから来て、私たちの道路を直してくれているんだな」 「寒い中、お疲れ様」
そう思うだけで、不思議とイライラが消え、ハンドルを握る手が少し優しくなるはずです。 そしてその「心の余裕」こそが、あなたと同乗者の安全を守る一番の安全装置になります。
冬場の工事を平準化しようという動きも近年はあるようですが、それでも年度末の工事はなくなりません。 どうぞ皆さん、働く人へのリスペクトを忘れずに、やさしい気持ちでハンドルを握ってくださいね。


