前回の記事では、初心者講習についての解説と回避するにはどうしたら良いかについてをお伝えしましたが、今回は**「実際にどんな講習なのか」**についてお話しします。
「まあ、金さえ払って座ってれば終わるんでしょ?」
「適当にやり過ごせばいいや」
そんなことはありません。最後には効果測定もありますし、適当にやっていると修了証明書をもらえません。
私たち指導員は、一度免許を与えられたのに、社会のルールを破ってしまった未熟なドライバーを、叩き直すための「矯正の場」でもあると思っています。
今日は、7時間に及ぶ講習の全貌と、私が現場で感じていた**「なぜ初心者は違反をするのか」、そして業界が抱える「合宿免許と地元教習所のいびつな関係」**についてお話ししましょう。
徹底解剖!「初心者講習」の7時間カリキュラム
まず、講習時間は結構長いです。
朝から夕方まで、みっちり拘束されます。基本的に初心者講習の受講は任意です。受けたくなければ受けなくてもいいんですが、その代わりほぼ再受験確定となり、合格率はほぼゼロに等しいので、免許を失うことになるでしょう。今回は受講することを前提にお話しします。
講習の内訳は、大きく分けて3つのパートで構成されています。
**「実技3時間」「座学3時間」「効果測定1時間」**です。
ざっくりとしたスケジュール感はこんな感じです。
| 時間割(例) | 内容 | 詳細 |
| 午前 | 実技講習①(所内) | 基本操作の再確認、S字・クランクなど |
| 実技講習②(路上) | 実際の交通状況での運転、法令遵守のチェック | |
| 昼休憩 | 参加者同士、仲良くなることもあります。 | |
| 午後 | 実技講習③(所内) | 急ブレーキ体験、危険回避、8の字走行など |
| 座学・講義 | 道路交通法、違反事例の研究、ビデオ視聴 | |
| 危険予測 | グループディスカッションなど(KYT) | |
| 効果測定 | 作文・テスト・講評 |
1. 実技講習(所内・路上)
「免許持ってるんだから余裕でしょ」と思いますか?
所内コースでは、法規に従った運転(一時停止、ウインカーのタイミングなど)を徹底的に見直します。交差点の右左折、狭路の通行、坂道発進。そして普段公道では絶対にやらない「急ブレーキ」や「危険回避」の体験もさせます。
路上に出れば、ただ走るだけではありません。「交通の流れに合わせた運転ができているか」「歩行者保護ができているか」を、指導員が隣で目を光らせてチェックします。
教習所を卒業して、細かなルールを忘れてしまっている方も多いです。
2. 座学・講義
道路交通法の再確認はもちろんですが、ここで重要なのは「自分の運転の振り返り」です。
「なぜ違反をしたのか?」「あの時どうすればよかったのか?」
これを突き詰めます。ただ教科書を読むだけの時間ではありません。
3. 効果測定
最後にテストがあります。
交差点の危険性についての記述や、今日の講習(所内・路上)を通じて感じたこと、反省点を作文にします。
安心してください。これは「落とすための試験」ではありません。真面目に受けていれば、基本的に全員合格します。しかし、態度が悪かったり、反省の色が見られなかったりすれば、当然不合格もあり得ます。
【実録】私が若者の「天狗の鼻」をへし折る理由
私が講習を担当していた時、特に気合を入れている瞬間があります。
それは、二輪車(バイク)の講習で、少しヤンチャな若者たちと対峙する時です。
初心者講習に来る若者たち(特にライダー)は、免許を取って数ヶ月経ち、公道にも慣れ、一番調子に乗っている時期です。
「俺、運転うまいし」
「運が悪くて捕まっただけだし」
そんな空気を全身から出しています。いわゆる**「天狗」**の状態です。
この鼻を、私は物理的に(運転技術で)へし折ります。
圧倒的な「格の違い」を見せる
所内コースでの講習中、私は受講者の安全に配慮しつつも、あえて彼らより遥かに高度な技術を見せつけます。
パイロンスラロームの通過速度、一本橋での圧倒的な安定感、8の字走行でのバンク角。
現役の指導員と、免許取りたての小僧。技術の差は歴然です。彼らは私の走りを見て、そして自分たちがそれを「再現できない」ことを悟り、言葉を失います。
別に私自身自分の技術を自慢するわけではありませんが、さすがに指導員は初心者ごときには負けません。
「なんだ、教官すげえな……」
そんな空気が流れた時、私は講義室で彼らにこう告げます。
「よく、その程度の運転技術で違反行為ができましたね」
若干、教室が凍りつくこともありますが、でも、私は続けます。
「私なら、怖くてできません。あなたたちの運転技術でルールを破るなんて、自殺行為に等しい」
違反は「勇気」ではなく「無知」である
多くの初心者は勘違いしています。スピードを出すことや、一時停止を無視することを「度胸がある」と思っている。
違います。それは**「怖さを知らない」だけ**です。
ベテランになればなるほど、プロになればなるほど、道路の「見えない危険」が見えてくるため、怖くて無茶な運転ができなくなります。
違反をするということは、道路交通法に反するということ。
ここで私は必ず、**「道路交通法 第一条」**の話をします。
道路交通法 第一条(目的)
この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。
「あなたたちがやった道交法に従わなかったという違反行為は、この『危険の防止』を放棄し、『交通の安全と円滑』を邪魔したんです。道路の怖さを本当に分かっている人間なら、そもそも違反なんてしようと思わない。今日の講習で、自分がどれだけ危険なことをしていたか、その未熟さを自覚して帰ってください」
ここまで言うと、大半の受講者は天狗の面を外し、真剣な顔つきに変わります。
これを気づかせるのが、私の仕事です。
業界の闇?「合宿免許」と「地元教習所」のいびつな関係
さて、ここからは少し業界の構造的な問題にも触れておきましょう。
初心者講習の教室を見渡すと、ある「傾向」に気づくことがあります。
それは、**「地方の合宿免許で取得した人」**の割合が、意外に多いということです(※もちろん全員ではありませんし、統計があるわけではありませんが、肌感覚として)。
「安く・早く」の代償
一部の地方合宿免許は、「最短〇〇日!」「激安!」を売りにしています。
若者たちは、安さと早さを求めて都市部から地方へ向かいます。
しかし、地方の教習所の路上コースは、信号も車も歩行者も少ない、のどかな一本道であることが多い。複雑な交通状況での判断を十分に経験しないまま、「ハンコ」をもらって卒業してしまうことがあります。
そして、彼らが免許を持って帰ってくるのは、交通量が激しく、複雑な交差点だらけの都市部です。
地方のガラガラの道で習った感覚のまま、都会の道路を走ればどうなるか。
安全確認がおろそかになり、ルールを無視し、結果として違反をしてしまう。
地元の教習所が「受け皿」になっている
そして違反をした彼らが、初心者講習を受けに来るのはどこか?
そう、地元の(通学制の)教習所です。
私たち地元の教習所からすれば、
「よそで短期間で詰め込んで、安全意識も希薄なまま卒業させられたドライバーの尻拭いを、なぜ私たちがやらなきゃいけないんだ?」
という思いが、正直なところあります。
ここで私が提唱したいのは、**「免許を取得した(卒業した)教習所でしか、初心者講習を受けられないようにする」**という制度改革です。
もしそうなればどうなるか?
合宿免許を行う教習所は、卒業生が違反をして戻ってくる(クレームになる)のを防ぐために、必死で安全運転を教えるようになるでしょう。「受からせればいい」ではなく、「事故らせない」教習にシフトするはずです。
教習所が、卒業生のその後の運転にも責任を持つ。それが本来あるべき姿ではないでしょうか。
まとめ
厳しいことばかり言いましたが、最後にこれだけは覚えておいてください。
「初心運転者期間」というのは、まだあなたがドライバーとして社会から完全に認められていない**「試験期間」**です。
緑色の免許証は、「半人前」の証明書です。
違反をしたということは、事故を起こす一歩手前まで行ったということ。
その事故で、他人の命を奪ったり、自分の一生を棒に振ったりする可能性があったということ。
今回の講習費や時間は痛手だったかもしれませんが、**「事故を起こす前に止められた」**と思えば、安いものです。
通常の教習では教わらない、生々しい事故の現実や、自分の未熟さを知ることができるのが初心者講習です。
でも本当は、こんな講習を受けずに済むのが一番です。安全意識をはじめから持っておくことが、何より重要なんです。
さて、次回はシリーズ最終回。
初心者講習でも更生できず、さらに違反を重ねてしまった人や、重大な違反をしてしまった人を待ち受ける、免許制度の最深部……
**「取消処分者講習」**ついて解説します。
お楽しみに


