原動機付自転車(原付一種、50cc以下)に乗るライダーにとって、**「二段階右折」**は避けて通れない義務です。しかし、この特殊な右折方法について、「なぜ原付だけ必要なのか」「具体的にどう動けばいいのか」を正確に理解している人は少ないかもしれません。
特に、学科試験で間違いやすく、実際の運転で事故を招きかねないのが**「方向指示器(ウインカー)をいつ、どのように出すか」**というルールです。
今回の問題は、二段階右折が**「周囲の交通への意思伝達」**という安全の基本に直結していることを示唆しています。単なる直進だからと合図を怠ると、後続車との間で誤解を生み、危険な追突や接触事故を誘発します。
本記事では、二段階右折の法的根拠(なぜ原付一種だけ義務なのか)から、正しい手順とウインカーのタイミング、そして違反時の重い罰則リスクまでを網羅的に解説し、原付ライダーの安全運転意識を高めます。
1. 問題提起と回答:直進中も「右折の合図」は必須
二段階右折に関する、多くの原付ライダーが勘違いしやすい問題を見てみましょう。
問題:「交差点を二段階右折の方法で右折しようとする原動機付自転車は、右折する地点まで直進している間は直進であるため方向指示器を出さない。」
さて、この内容は
⭕️ 正しい
❌ 誤り
答え:❌ 誤り(直進中も右ウインカーを出し続ける)
正解は ❌ 誤り です。
二段階右折は二段階で右折を完了する方法ですが、交差点の30m手前から待機場所までの直進中も、**「右折する旨の合図(右ウインカー)」**を出し続けなければなりません。
回答の根拠:意思伝達の義務
道路交通法は、二段階右折を行う原動機付自転車に対し、「右折しようとするときは、その行為をしようとする地点から30メートル手前の地点に達したとき、右折の合図をしなければならない」と定めています。
つまり、二段階右折は右折が完了するまでの一連の動作であり、最初の段階の直進中も、周囲の交通に対し「私はこの交差点で右折待機に入ります」という意思を明確に伝え続ける義務があるのです。
2. 基礎解説:二段階右折の定義と「なぜ原付一種だけか?」
二段階右折は、道路交通法において**第一種原動機付自転車(原付一種、50cc以下)**に義務付けられた特殊な交通ルールです。
(1)二段階右折の定義と対象

| 項目 | 内容 |
| 対象車両 | 第一種原動機付自転車(50cc以下、定格出力0.6kW以下)、および軽車両(自転車、リヤカーなど)。 |
| 対象交差点 | 以下のいずれかに該当する交差点。① 右折レーンを含み車両通行帯が片側三車線以上の交差点。② **「原動機付自転車の右折方法(二段階右折)」**の標識がある交差点(車線数に関係なし)。 |
| 方法 | 交差点内を小回りせず、交差点の側端(輪郭)に沿って直進し、交差点内の待機スペースで向きを変えて曲がる。 |
(2)二段階右折が必要な理由(核心)
原付一種だけに二段階右折が義務付けられている最大の理由は、**原付一種の最高速度「30km/h制限」**にあります。
- 速度差による危険性: 原付一種は第一通行帯(一番左の車線)の左端を走るキープレフトが義務付けられています。この車両が、時速50~60km/hで走行する周囲の車が多い3車線以上の大きな交差点で通常の小回り右折(自動車と同じ右折)をしようとすると、右側に二回も車線変更をしなければなりません。
- 事故防止: 速度の遅い原付が、高速で流れる交通の中を横切るように右車線へ移動するのは極めて危険です。この速度差から来る交通事故を防止するため、車線変更をせずにそのまま直進し、信号が変わってから方向を変えるという、安全な手順が定められました。
つまり、二段階右折は原付一種の安全確保を目的とした、法的に義務付けられた特別な措置なのです。
3. 重要解説:二段階右折の具体的な手順とウインカーのタイミング
二段階右折の実際の流れと、今回の問題の核心であるウインカー(合図)のタイミングを詳しく見ていきましょう。
| 手順 | 行動 | ウインカー(合図) | 備考 |
| 第1段階:直進(合図開始) | 交差点の30m手前で左車線(第一通行帯)の左端に寄り、右ウインカーを出す。 | 右ウインカーを出す | 直進中も右折待機を示すため出し続ける |
| 第2段階:交差点進入 | 青信号に従い、交差点の側端(輪郭)に沿って徐行で進入し、直進する。 | 右ウインカーを出し続ける | 第一通行帯が左折専用レーンでも直進する。 |
| 第3段階:待機と方向転換 | 待機スペース(左方道路の停止線の少し前)で停車し、バイクの向きを右に変える。 | ウインカーを消す | 待機中(停車中)は合図不要。 |
| 第4段階:再発進 | 正面の信号機が青になったら、直進して右折を完了する。 | 合図不要 |
ウインカーが必須の理由
交差点の30m手前から右ウインカーを出すのは、後続のドライバーに「私はこの先で右折の行動に入ります」という早期の警告を与えるためです。
特に速度の速い後続車は、原付が左端を走行していると直進するものと思い込みやすいため、ウインカーを出すことで追突や無理な追い抜きを未然に防ぐ効果があります。
4. リスクとトラブル:交差点の複雑性と後続車の誤解
二段階右折は安全を目的としたルールですが、実際の道路ではその複雑さからトラブルや事故の温床となることがあります。
① 速度差と無理な追越し
第一通行帯は、大型車両、バス、自転車、駐車車両など様々な交通が混在しています。
- すり抜けの危険: 急ぐあまり、左端をすり抜けたり、無理な追越し・追抜きをしたりする行為は、待機車両との接触事故を招きます。
- 後続ドライバーの誤解: 原付ライダーが右ウインカーを出しているのを見て、二段階右折を知らない後続車が「何をしているんだ?」とけげんに思い、右側から無理に追い越しをかけてくることがあります。
② 交差点内の油断による事故
待機スペースに進入する際や、向きを変える際も油断できません。
- 内輪差・巻き込み: 待機スペースで向きを変える際、後方から来ていた直進車や左折車に引っ掛けられて転倒するケースがあります。
- バイク同士の衝突: 稀に、左方道路をすり抜けしてきたバイクが停止線の前に出ようとして、待機スペースに入ろうとした二段階右折車と衝突する事例も報告されています。交差点内でも油断せず、前後左右をよく確認することが必須です。
③ 左折専用レーンでの注意点
第一通行帯が左折専用レーンになっている場合でも、二段階右折をする原付は直進しなければなりません。この際、後続の左折車を妨害したり、焦って無理に右に寄せたりすると、かえって危険です。左折車には道を譲るなどの配慮をしつつ、安全に直進を継続することが求められます。
5. 違反と罰則:すべき交差点でしない/不要な交差点でするリスク
二段階右折のルールは非常に厳格であり、すべき交差点でしない場合も、不要な交差点でする場合も、すべて交通違反となります。
(1)交差点右左折方法違反
以下のいずれかの違反を犯した場合、交差点右左折方法違反として取り締まられます。
- すべき交差点で小回り右折を行った場合
- 不要な交差点で二段階右折を行った場合
| 違反区分 | 違反点数 | 反則金(原付一種) |
| 交差点右左折方法違反 | 1点 | 3,000円 |
(2)信号無視との複合リスク
特に注意が必要なのが、二段階右折が不要な交差点で二段階右折をしてしまうケースです。
不要な交差点で二段階右折をすると、待機場所で正面の信号が青になるのを待つことになりますが、その際、右折先の信号が赤信号となっていることがほとんどです。
この場合、「交差点右左折方法違反」と「信号無視」という2つの違反を同時に犯していることになります。このような場合、最も重い罰則が適用されるため、信号無視として取り締まられる可能性が高くなります。
| 違反区分 | 違反点数 | 反則金(原付一種) |
| 信号無視違反(赤色等) | 2点 | 6,000円 |
二段階右折が不要な交差点では、クルマと同じ小回り右折を行うべきであり、「わからないからとりあえず二段階右折」という行動は、かえって重い罰則を招くリスクがあるのです。
(3)車間距離の重要性
二段階右折を安全に行うには、**「車間距離」**が非常に重要です。
原付一種は第一通行帯の左端を走るため、前を走る大型車両やバスの影になって、二段階右折の標識や右折レーンの出現を見落としがちです。車間距離を長めに取ることで、前方の標識や道路状況を早めに察知し、ゆとりをもってウインカーを出すことが可能になります。
6. まとめと乗り換えのススメ
二段階右折におけるウインカーの義務は、「私は右折します」という安全のための明確な宣言です。
- 直進中もウインカーは出し続ける
- 義務の根拠は原付一種の30km/h制限による安全確保
- 不要な交差点での二段階右折は重い信号無視リスクを伴う
二段階右折は、その煩雑さや事故リスクから、ライダーにとって大きなストレスとなることがあります。そうしたリスクや義務から解放されたい方には、原付二種バイク(51cc以上)への乗り換えを強くお勧めします。
原付二種であれば、二段階右折の義務や30km/hの速度制限がなくなり、2人乗りも可能になります。クルマの免許を持っている方なら、最短2日間で必要なAT小型限定免許を取得することが可能です。安全で快適なライディングのために、ぜひ乗り換えも検討してみてください。


