車を運転する上で、「走る」「曲がる」「止まる」といった基本的な性能を維持することは、安全の根幹です。しかし、車の点検といえば「車検」だけを思い浮かべ、**「法定点検(定期点検)」**のことはよくわからない、というドライバーは少なくありません。
車検を受けたばかりなのに、ディーラーから点検のお知らせが来て、「車検と点検って何が違うの?」と疑問に感じたことがある方も多いでしょう。
実は、法定点検の義務や頻度は、マイカー(自家用車)なのか、バスやタクシー(事業用車)なのか、そして車種によって細かく法律で定められています。
本記事では、多くの人が勘違いしやすい法定点検の義務と頻度を明確にし、車検との決定的な違い、そして日常点検の重要性までを徹底的に解説します。
1. 問題提起と回答:法定点検の頻度は一律ではない
まずは、車の点検義務に関する、ドライバーが間違いやすい問題を見てみましょう。
問題:「事業用の自動車、自家用の大型車、及び自家用普通貨物自動車は、6ヶ月点検をし、必要な整備をしなけらばならない。」
さて、この内容は
⭕️ 正しい ❌ 誤り
答え:❌ 誤り(不正確)
正解は ❌ 誤り です。
自家用普通貨物自動車や、一部の中小型トラック(自家用)は、確かに6ヵ月点検が必要です。しかし、問題文にある自家用の大型トラックは、12ヵ月点検(101項目)の対象であり、6ヵ月点検の義務はありません。
また、事業用車(バス・トラック・タクシー)は、12ヵ月点検に加えて3ヵ月ごとの点検が義務付けられており、一律に「6ヵ月点検をしなければならない」と断定するのは不正確です。
この誤解を解消し、安全運転のために必要な点検の知識を身につけましょう。
2. 基礎知識:車検と法定点検の決定的な違い
「車検」も「法定点検」も、どちらも道路運送車両法で定められた義務ですが、その目的と内容、罰則の有無は全く異なります。
車検(継続検査)の役割
車検は、車が安全性や公害防止などの保安基準に適合しているかを一定の期間ごとに確認する**「検査」**です。
- 目的: 国の基準をクリアしているかを確認すること。
- 保証: 次の検査までの安全性などを保証するものではありません。
- 頻度: 自家用乗用車は新車登録から最初の車検までが3年間、以後2年ごと。
- 罰則: 車検切れの車で公道を走行した場合は、道路運送車両法違反により6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。自賠責保険切れも加わると、さらに罰則が重くなります。
法定点検(定期点検)の役割
法定点検は、故障やトラブルが起きないように、事前に点検・整備するものです。劣化した箇所や不具合になるおそれがある箇所を事前に点検することで、トラブルの防止、性能維持、安全走行を実現させるために行います。
- 目的: 故障やトラブルが発生する前に**予防的に「点検」**すること。
- 義務の根拠: 道路運送車両法第48条に基づき、車のユーザーに点検・整備の義務が負わされています。
- 車検との関係: 24ヵ月点検は車検の時期と重なるため、ディーラーや整備工場に車検を依頼すると、同時に行われることがほとんどです。
3. 最重要解説:車種・用途ごとの法定点検の頻度と項目数
法定点検は、**車の種類と用途(自家用か事業用か)**によって、点検の頻度と項目数が厳格に定められています。
3-1. 自家用車(マイカー)の場合
一般的な乗用車は1年・2年ごとの点検ですが、車体が大きいトラックはよりこまめな点検が求められます。
| 車種 | 定期点検の頻度 | 点検項目数 |
| 自家用乗用車、自家用軽自動車 | 12ヵ月ごと(29項目) 24ヵ月ごと(60項目) | 29項目/60項目 |
| 中小型トラック(自家用) | 6ヵ月ごと(22項目) 12ヵ月ごと | 22項目/101項目(大型の場合) |
| 大型トラック(自家用) | 12ヵ月ごと | 101項目 |
| 二輪自動車 | 1年ごと(33項目)、2年ごと(51項目) | 33項目/51項目 |
今回の問題が「❌」となる根拠は、自家用の大型トラックは「12ヵ月ごと」の点検であり、「6ヵ月ごと」ではない点にあります。
3-2. 事業用車・その他の場合(公共性の高い車両)
バス、タクシー、トラックなどの事業用車は、公共の安全に関わるため、最も頻繁な点検が義務付けられています。
| 車種 | 定期点検の頻度 | 点検項目数 |
| バス、トラック、タクシー(事業用) | 3ヵ月ごと、12ヵ月ごと | 3ヶ月点検: 51項目、12ヶ月点検: 101項目 |
| レンタカー(乗用車) | 6ヵ月ごと、12ヵ月ごと | 86項目 |
| レンタカー(乗用車以外)、牽引自動車 | 3ヵ月ごと、12ヵ月ごと | 101項目 |
事業用車(バス・トラック・タクシーなど)は、3ヵ月ごとに51項目の点検が義務付けられており、これは一般の乗用車と比べて圧倒的に多い頻度と項目数です。この厳格な基準は、運行中の事故や故障を防ぎ、公共の安全を確保するために特に重要視されています。
4. 法定点検を補完する日常点検の義務と重要性
法定点検とは別に、車のユーザーには日常点検も法律(道路運送車両法第47条の2)で義務付けられています。
4-1. 日常点検の頻度と事業用車の運行前点検
日常点検の頻度や時期は特に定められていませんが、ユーザーが車の状態に応じて自分で決めることになっています。
- 自家用車(マイカー): 走行距離や走行時の状態から適切と判断される時期に実施します。最低でも月に1回は実施しておくと安心です。
- 事業用車: バスやタクシー、貨物用のトラックなど、多くの人や物を乗せる車は、毎日の運行前に点検を行うことが法律で義務付けられています。
4-2. 日常点検の具体的な15項目
日常点検では、以下の15項目をチェックすることが求められています。
| 点検箇所 | 項目 | 事業用車で特に注意すべき例 |
| エンジンルーム (5項目) | 冷却水、オイル、ブレーキ液、バッテリ液、ウォッシャ液の量 | — |
| 車の周り (4項目) | ランプ類、タイヤの亀裂・損傷・摩耗、空気圧、溝の深さ | タイヤの亀裂や損傷、異常摩耗がないか |
| 運転席 (6項目) | エンジンの始動・異音、ウォッシャの噴射、ワイパーの拭き取り、ブレーキの踏みしろ・効き、駐車ブレーキの引きしろ、エンジンの低速・加速状態 | 制動装置: ブレーキペダルや駐車ブレーキのきき具合が適切か |
日常点検は、ユーザーが目視等で実施するため、車の異常を早期発見し、パンクやバッテリー上がり、オーバーヒートなどの重大なトラブルを未然に防ぐために不可欠です。
5. 法定点検Q&A:罰則、費用、整備管理者の役割
5-1. 法定点検を受けないと罰則はある?
- 自家用車(マイカー): 法定点検の不履行そのものに罰則は科せられません。ただし、点検を怠った結果、整備不良とみなされると、違反点数や罰金が科せられるリスクがあります。
- 事業用車: 事業用車が法定点検の実施義務を怠った場合、道路運送車両法により30万円以下の罰金や、運行停止命令などの罰則が科せられる可能性があります。
5-2. 整備管理者の役割(事業用車)
公共性が高い事業用車の場合、点検の実施に加え、整備管理者の選任が義務付けられています。
- 役割: 整備管理者は、点検の実施計画の立案、点検の実施、点検結果に基づく整備の実施計画の立案など、車両の安全維持に関する重要な業務を担います。
5-3. 法定点検の費用目安と実施場所
法定点検は、専門知識があるディーラーや整備工場に依頼することが推奨されます。
- 実施場所: ディーラー、指定整備工場、認証整備工場、カー用品店、ガソリンスタンドなど。
- 費用の目安:
- 1年(12ヵ月)点検:10,000円〜15,000円ほど
- 2年(24ヵ月)点検:20,000円〜25,000円ほど
6. まとめ:安全のためのユーザーの義務
今回の問題を振り返ると、法定点検の義務と頻度は、車種や用途によって細かく異なることがわかります。特に、事業用車や車体の大きな車両は、一般の乗用車よりもはるかに短いスパンでの点検が必要です。
法定点検は、車検とは違い、故障やトラブルを未然に防ぎ、車の安全性を確保するための、ユーザーに義務付けられた重要な定期点検です。
罰則の有無にかかわらず、車を安全に走行させることはドライバーの責務です。ぜひ本記事を参考に、ご自身の車がどの点検頻度に該当するのかを確認し、日常点検と合わせて法定点検を必ず期間ごとに行うようにしましょう。

