「あなたの持っている免許で何が運転できますか?」
この問いに、すぐ答えられる人はどれくらいいるでしょうか。
「私は普通自動車免許を持ってます。」
そう答えたとして、その普通免許で次のクルマは運転できるでしょうか?
- 最大積載量4トンの貨物自動車
- 最大積載量2トンのトラック
- 最大積載量1.5トンの小型貨物
正確に答えられる方は意外と少ないのです。なぜなら、免許を取得した年代によって、運転できる車の範囲が大きく異なるからです。気づかないうちに「本当は運転できない車」を運転してしまい、無免許運転で処罰されるケースすらあるのです。
そこで今回は、免許制度の歴史をひも解きながら「あなたの免許でどんな車が運転できるのか」について解説していきます。
1、最大積載量と車両総重量を理解する
まず、免許制度の違いを理解するには「最大積載量」と「車両総重量」の違いを押さえることが重要です。
最大積載量とは?
最大積載量とは、その車に積める荷物の最大の重さのことです。
車両自体の重さは含まれません。

例えば「4トン車」という表現を耳にしますが、この「4トン」とは「最大積載量4トンの貨物自動車」という意味です。つまり「トラックの重さが4トン」ではなく「荷物を4トンまで積めるトラック」ということ。ここを誤解している方が実はとても多いのです。
車両総重量とは?
一方、車両総重量とは次の合計です。
- 車両本体の重さ
- 積荷の重さ
- 乗員の重さ(1人あたり55kg換算)

この総重量が免許区分に大きく関わってきます。よく「中型8トン」という表現を耳にしますが、この「8トン」とは車両総重量を意味しています。
2、免許制度の歴史
2007年以前の制度
2007年以前は普通免許を取得すると、最大積載量5トン未満・車両総重量8トン未満まで運転できました。
これ以上の車両を運転するには大型免許が必要でしたが、当時は「中型免許」が存在しなかったため、大型免許を取れば一気に制限が解除されていたのです。
しかも当時の大型免許は、今の「中型車(4トン車)」で教習を受けるケースが多く、比較的簡単に取得できました。今では考えられない「夢のような時代」だったともいえるでしょう。
しかし、大型車両による重大事故が相次ぎ、安全性が問題視されるようになりました。そこで行政は「大型免許のハードルを上げる」ために制度を改正し、2007年に中型免許を新設しました。
2007年改正:中型免許の導入
この改正で普通免許の範囲は一気に縮小。
最大積載量5トン未満 → 3トン未満
車両総重量8トン未満 → 5トン未満
新しく誕生した中型免許では、最大積載量3トン以上6.5トン未満・車両総重量5トン以上11トン未満が対象となり、それ以上は大型免許が必要となりました。
さらに大型免許の教習は「10トンクラスの車両」で実施されることになり、大型取得のハードルは格段に高くなったのです。
2007年改正の問題点
問題点1:物流業界の人手不足
それまで18歳で普通免許を取れば、4トントラックで働けました。
しかし改正後は「免許取得後2年以上」かつ「中型以上が必要」になってしまい、若者が物流業界に入れなくなったのです。
その結果、トラック協会や全国高等学校長協会が立ち上がり、「若者が就職できる環境を戻してほしい」と行政に働きかけました。
問題点2:制度の複雑化による無免許運転
一見すると「普通免許で2トン車は運転できる」と思えます。
しかし実際には冷蔵車や高所作業車、パッカー車など、多くの2トン車は総重量が5トンを超えてしまいます。つまり中型免許が必要なのです。
制度の複雑さから「気づかない無免許運転」が続出し、取り締まり件数も増加しました。
2017年改正:準中型免許の導入
制度の不備を修正する形で、2017年には準中型免許が新設されました。
普通免許の範囲はさらに縮小し、
最大積載量2トン未満・車両総重量3.5トン未満となりました。
一方、新設された準中型免許(18歳以上で取得可能)では、
最大積載量2トン以上4.5トン未満・車両総重量3.5トン以上7.5トン未満
が運転可能となり、すべての2トン車をカバーできるようになりました。
つまり「普通免許では2トン車すら運転できない」代わりに「準中型を取ればOK」という構造に変わったのです。
3、教習所業界への影響
この制度改正で頭を抱えたのが、実は教習所業界です。
- 新しい免許区分が増えるたびに、新しい車を購入しなければならない
- コースを改修し、公安委員会の基準に合わせなければならない
- 大型車両の教習は広大なコースが必要になり、実施できる教習所は減少
その結果、大型免許を取りづらくなり、物流業界の人手不足にも拍車をかけている可能性があります。
まとめ
今回は第1章として、免許制度の歴史的な背景を整理しました。
- 普通免許で運転できる範囲は、取得年代によって大きく異なる
- 2007年・2017年の改正で普通免許の範囲は縮小され続けている
- 背景には安全性の確保や物流業界の人手不足問題がある
- 教習所業界も制度改正に大きな影響を受けている
次回の第2章では、年代ごとに「普通免許で乗れる車」を図解しながら、さらにわかりやすく解説していきます。
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