高齢者講習に携わっていた頃、70歳以上の方にこう聞くと──
「高齢者マーク、つけていますか?」
10人中、手を挙げるのは1人か2人。
つまり表示率は 10〜20% といった印象です。
そこで多くの方が気にされるのが、こんな疑問です。
「あれって、つける必要あるの?」
私の答えは、こうです。
「はい、つける“必要”がありますよ。」
驚かれる方も多いのですが、これは“気持ち”の問題ではなく、実は法律にも関わる話なのです。
高齢者マークとは?〜義務から努力義務へ〜
● はじまりは努力義務(1997年)
1997年の法改正で、まずは75歳以上の方に対して努力義務として導入されました。
● 対象が70歳以上に(2002年)
2002年には対象年齢が 75歳→70歳 へと引き下げられます。
● 一時は“義務”化も(2008年)
2008年には一度、表示が義務化されました。違反には反則金・点数の付与も。
ですが、当時の「枯れ葉マーク」と揶揄された旧デザインへの批判もあり、取り締まりは控える方針へ。
● 義務→再び努力義務に(2009年)
2009年、「当分の間、表示義務は適用しない」とされ、努力義務に戻りました。
● デザイン変更(2011年)
現在のやさしいデザイン(四つ葉型)は、2011年から正式施行。旧デザインも使用可能ですが、現在はほぼ新デザインが主流です。
70歳以上の方が高齢者マークをつけない理由
実際、なぜ多くの方が表示しないのか──?
講習などで聞いた主な声はこちらです:
- 高齢者とは思いたくないから
- いつの間にか70歳になっていて、存在自体を忘れていた
- つけたい人だけがつければいいと思っていた
- 詐欺や泥棒に狙われそう
- 逆に煽られそうで怖い
お気持ちはよく分かります。特に「高齢者扱いされる」ことに抵抗がある方は多いです。
しかし道路交通法にはこう書かれています:
「加齢に伴う身体機能の低下が運転に影響を及ぼすおそれがある場合は、高齢者マークを表示するよう努めなければならない。」
つまり「自分はまだ衰えていない」と思っている限り、つけようとは思えないのも当然なんです。
ですが本当にそれでいいのでしょうか?
高齢者マークをつけるべき“3つの理由”
① 法律に基づく「保護対象」になる
高齢者マークを表示している車に対しては、他のドライバーに 幅寄せや割り込みをしてはいけない義務 が発生します(道交法第71条5号の4)。
つまり、周囲の運転が優しくなる ということ。
実際、違反すれば初心運転者保護義務違反として反則金や点数も科されます。
車種 | 反則金 |
---|---|
普通車 | 6,000円 |
大型車 | 7,000円 |
違反が重大事故に発展した場合は「危険運転致死罪」に問われる可能性も。だからこそ、表示することが大きなリスク回避になるのです。
② 周囲が距離を取ってくれる=事故リスクが減る
人間の心理として「高齢者マークがついている車には近づきたくない」という気持ちが働きます。
それは決して悪意ではなく、
「何かあったら嫌だから、ちょっと距離をとろう」
という 防衛本能 のようなもの。
結果的に車間距離が広がり、無理な追い越しや割り込みが減り、自然と事故リスクも軽減されます。
③ 自分が高齢ドライバーであるという“自覚”がもてる
70代になると、加齢による身体機能の変化は避けられません。
- 夜間視力の低下
- とっさの判断力の遅れ
- ペダルの踏み間違い
- 視野や死角の拡大
こういった変化は、自分自身では気づきにくいものです。
でも高齢者マークを表示することで、自然と「慎重に運転しよう」という意識が高まり、事故を未然に防ぐ力になります。
「俺はまだ大丈夫」と思っている方へ
現役指導員の立場から正直に申し上げます。
70歳以上で現在の技能検定(仮免)を受けたら、合格できない方がほとんどです。
それは運転技術が下手という意味ではなく、
- 長年の“慣れ”や“クセ”
- 見えにくさや反応速度の低下
などが、客観的に運転力の低下として表れるからです。
まとめ:自覚することが安全運転の第一歩
誰でも、年齢には逆らえません。
「まだまだ若い」「自分は違う」と思いたい気持ちは自然ですが、それが思わぬ事故に繋がることもあります。
事故の多くは「まさか自分が…」という油断から起きています。
ぜひ、高齢者マークを「恥ずかしい印」ではなく、**自分と家族、周囲の安全を守る“しるし”**としてとらえていただければと思います。
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